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願掛けの別れ
『卒業生一同、起立』
スピーカーから流れて来た声が、体育館に響く。
ガタガタと椅子が鳴り、卒業生が立ち上がる。
『卒業生、退場』
ブレザーに花飾りを付けた卒業生たちが、1組から順番に、担任を先頭にして真ん中の通路を歩いて行く。
保護者や在校生たちが、退場していく生徒たちに拍手を送る。
俺も、前の生徒に続いて一歩踏み出した。
ーー
「終わった……長かった……」
ようやく体育館の外に出た俺は、ぷはっと息を吐き出した。
俺より後に体育館から出てきた羽月が、俺の肩にもたれかかってきた。
「なに吹雪、式中ずっと息止めてたわけ?」
「止めてないけど、気持ちでは止めてた」
息を止めていたというより、息が詰まった場所からようやく出て来れた気分だ。
「意味分からん」
黒髪の天然パーマを揺らしながら笑っている。ついでに俺の背中をバシバシと叩いてくる。
「いてぇって……。こう、なんかさ。総会とか式とか、話しが長くて無理。もっと簡潔に、一言で終わらせてほしい」
「卒業おめでとう! じゃっ! って感じで?」
「感じで」
無理だろ、と笑いながらまた背中を叩かれた。
その手から逃げ、これ以上叩かれないように羽月と向かい合うように立った。
羽月とは高校で出会って、同じ映画研究会で一緒に映画を作った仲だ。俺が脚本を担当し、羽月が演出を担当した。
2人でいくつかの作品を作り上げた。それでもたった3年間だ。物足りなさはある。
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