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不意に羽月が俺から視線を逸らした。俺の肩越しに何かを見ている。
俺は顔だけ振り返ると、「23期生 卒業式」の看板が目に入った。文字の周りを、ピンクと白の造花が交互に飾っている。
「3年間なんてあっという間だったな」
羽月が何でもないことのように言う。その言葉から、どことなく寂しさを感じた。
俺も羽月も大学進学だが、行き先は別々だ。
これからは同じ校舎に通えなくなる。
同じ制服を着て、同じ授業を受けて、映画作りにかまけて揃って宿題を忘れて先生に呆れられることも無くなる。
「吹雪」
「なんだよ」
羽月に呼ばれて視線を戻す。
不意に風が吹き、前髪が揺れて目にかかる。鬱陶しくて髪をかき上げた。
羽月は目を細めて俺を見ていた。いや、それよりもっと遠くを見ていた。
頭の中で過去を遡っているのだろう。
文化祭で披露するクラスの舞台内容でもめて、2人とも目に涙を浮かべても言い合いをやめなかった。
映画研究会の制作で煮詰まって3徹した時は、目の下の隈が酷すぎて、女子にコンシーラーで隈を隠してもらった。
苦労やケンカもしたけど、いいものを作り上げた時は達成感に頬が緩みまくった。
放課後はよく学校の近くの喫茶店で、映画のことを熱く語った。
「オレ、高校でお前に出会えてマジでよかった」
羽月が右手を差し出す。
「お前は脚本家、オレは演出家。次会うときは、お互いにその夢を叶えた時だ」
羽月に言葉に頷き返し、俺は右手で羽月の手を握る。
「叶えたら、また一緒に作ろうぜ」
「あぁ。内容でもめてオレに言い負かされても、次は泣くなよ?」
「うっせぇ! てか羽月も泣いてたろ!」
「オレは泣いてないからな!」
いい雰囲気をぶち壊すのは羽月の癖だ。気恥ずかしさもあるんだろうけど。
ってか、やっぱり羽月も思い出してたのかよ。
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