1.ご搭乗ありがとうございました。

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1.ご搭乗ありがとうございました。

「シフト、毎月渡してるんだから今日帰ってくるって分かるよね?」 私が3泊4日のフライトから帰ってくると、なぜだか家に知らない女がいた。 鍵を渡している彼氏が部屋にいるのは百歩譲ってよしとしよう。 知らない女が家に置いてある私の航空会社の制服を着て、ベットの上で彼にまたがっている。 突然、帰ってきた私に驚いている彼は、履いていないので安心できない。 しかし幸い女の方は洋服を着ていた、私の制服だけど。 「あと、すみません、その制服支給品で退職する時、帰さないといけないんで脱いでもらえますか? 私、この人と来月結婚して退社するんで返さなきゃいけないんです。それに萌え袖になってますよ。だらしないです。実は私腕長くて2センチ長く作ってもらったんです。もしかしてあなたも履いてませんか?安心できませんね。ご搭乗ありがとうございました。早く彼から降りてください」 女の方は慌ててしまって、服を脱いでしまって良いのか悩んでいる。 返却しなければいけない制服なので脱いでもらわなければならない。 「もしかして、フットサル教室にお通いのお子様のお母様だったりしますか?私と同年代ですよね。首に年が出ています。恥ずかしがってないで着替えてもらえませんでしょうか?」 制服のスカーフをとったら若造りしているが、首に年齢を感じた。 「ごめん珠子、先月のシフト見てたわ」 結婚するのだからと最近私の家に転がり込んできた彼は元サッカー選手だ。 ちなみにJ3に少しいただけである。 小さい子を連れた若造りのお母様達が集うサッカー教室で週2回働いているだけで大した収入もない。  ほとんど私のヒモ状態だが、来年40歳になる私は結婚を焦ってとんだハズレをつかまされていたらしい。 サッカー教室は欲求不満のお母さん方の巣窟で、浮気性の彼と相性が良かったようだ。 「まあ、そういう問題じゃないんだけどね。あの、お母様、早いところ着替えてくれませんか? クリーニングとかはいらないです、ボックスに入れとけば会社持ちでクリーニングしてくれるんでとにかく脱ぎ捨てて出てってください。もう、恥じらいが可愛いお年ではありませんよ。私、1度外出るんで、着替えてくださいね」 私は1度外に出ることにした。 会社を辞めることになってしまったが、婚約も破棄した方が良いだろう。 「2.5次元俳優、起業家、商社マン、マスコミ、広告マン、バンドマン、スポーツ選手、ありとあらゆる人間に弄ばれた人生だった。付き合う相手はなぜ私の収入と反比例するように低収入になっていった。子供の頃の夢を叶えただけなのに何がいけなかったんだー! 私の身長があと15センチ低ければ世界は変わっていたー!」 私は雄叫びをあげながら、道路に飛び出してそして車に轢かれた。 飛行機に乗るのが怖いという人がいるが、自動車事故の方がずっと多い。 CAなんてなるんじゃなかった。 私が背が高いだけで、CAになれるよとその気にさせてきた親戚の人間が憎い。 しょっちゅう遊び目的の男を集めた合コンを開いて自分は結婚までこぎつけた同僚が憎い。 若い子ばかりの中で、毎日フライトしなければならない今が憎い。 私は憎しみの渦のようなものに取り込まれ、異世界へと落ちていった。 「髪の毛、ピンクじゃん。流行りの異世界転生じゃん。読んでないわー。直近で読んだのノートに名前書いて人殺すやつだけだわ」 私は西洋風の豪華絢爛な部屋で起き上がった。 髪の毛ピンクだし、10歳くらいの女の子になっている。 相当、ファンキーなお家でない限りこの年の女の子の髪をこの色には染めない。 「金持ちだな。悪役令嬢ってやつか。こっから、王子と婚約話くるけど地雷だなそれ。イケメンとりあえず警戒しといた方が良さそうだな。家の経済力すごそうだし、とりあえずウブそうな貧乏人狙いなら安全だろう。ガンガンくるやつはメインキャラの可能性高いからな」 私はざっと知っている最近話題の異世界転生者の知識を武器にこの世界で生き延びることにした。 「お嬢様、あの今ルイ王子殿下が見られています。婚約のお話があるそうです」 メイドが恐る恐る話してくる。 「20代ですか? 若いですね。メイド服そそります」 私が言った言葉に若いメイドは凍っていた。 しかし、夢だろうと異世界転生だろうとプライベートで上品ぶるのは流石に無理、それがCAだ。
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