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駅の窓口まで行くと、駅員はいなかった。運賃の清算はどうしよう。
俺が驚いたままの顔をしていると、後ろから裕希が心配そうに話しかけた。
「京くん、大丈夫?」
「にゃわーッ!」
「あ、猫さん? ふふッ」
「おーい、裕希さんよー。ここは笑うところじゃないってばー」
不思議な話だ。阿仁合駅の中に誰一人いない。
神秘的な場所だから、逆に俺たちが阿仁から神隠しされたとか。
そりゃ、俺も猫みたいに驚くよ。
再会後はじめて、裕希は屈託ない笑みを見せた。
大きい目が細くなるんで、相変わらず可愛い顔だな、と俺は思った。
まじまじと見過ぎていたのだろう。
彼女は不思議そうに、俺の顔を見返す。
「何を見ているの?」
「ごめん。混乱して、思考停止していた」
「ねぇ、京くん。森吉山から見れば、何か分かるかな?」
「高いところだし、何か分かるかも。で、どうやって、移動するんだよ?」
「京くん、車の運転免許証は?」
「フリーターだけど、一応持っているよ! もう~!」
不安になった俺は、怒りっぽい。
一方で、裕希は冒険する前の楽しそうな顔だ。
これ、迷子がする反応だ。
車内の揺れが心地よくて、寝てしまった結果がこれだよ。
今のところ、フリーターの俺に良いところなし。
不甲斐なくて、床に視線を下ろす。
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