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裕希がてぃッと声をあげて、動いているゴンドラのドアを開けた。
そして、ゴンドラに親指を向けて言った。
「京くん、乗れるよ?」
「この状況で行くってか!」
「私も一緒に行くよ。京くんのためなら、私は何だってするから。本当に何だってする」
「うわ、イケてる。その台詞、俺にちょうだい」
俺は余計な一言を添えてしまった。
顔を真っ赤にした裕希は無言で、頭を引っぱたく。
俺をゴンドラに突き入れて、自身もすぐに入った。
彼女は対面に座ると、緑色の見慣れないリュックサックを席に下した。
不思議に思った俺は尋ねた。
「そんなリュックサック持ってきたっけ?」
「車の中にあったの。便利そうだから持ってきた!」
「他人の車から物を盗むなよな~」
「その他人の車を走らせたのは、だーれだ?」
「怒った顔で、虫よけスプレーを俺に向けないでくれ」
とどのつまり。
他人の車を勝手に走らせたのも、リュックサックを盗んだのも、この緊急時は仕方ないのだ。
渋々、俺は折れた。
だが、リュックサックの中に入っていた、虫よけスプレーの顔面噴射はお断りした。
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