181人が本棚に入れています
本棚に追加
/130ページ
「ありがと。あんたに感謝する時がくるとは思わなかったわ」
私は皮肉を込めてそう言ったが、心は軽くなっていた。
「なっ! ──お前なぁ……」
何か言いたそうに突っかかってきた琉唯くんは、私の顔を見て何故かそれ以上言うのを止めた。
私……何故か微笑んでいる自分に気付いていたが、今はそれを否定しなかった。
「お前、荷物それだけか?」
滅茶苦茶デカいスーツケースを見て、不思議そうに琉唯くんが尋ねる。
「うん、一応生活できればいいから。あとは給料出たら買い揃えていく」
そう説明すると、そのデカいスーツケースを琉唯くんは軽々を持ち上げる。私は申し訳なくて慌てて「大丈夫だから」と持ってもらうことを断ろうとした。
そこまでしてもらう義理はない。
「あのなぁ、お前は俺に恥かかせんのかよ。だからモテねーで間男捕まえんだろーが」
「はぁ!? 男運やモテ具合についてあんたに言われる筋合いは無いんだけど!」
何でこいつは何でも嫌味なんだ!! そりゃあ私は恋愛経験なんてないわっ! だからって元凶にそれを指摘されたくない。
私は反論しながら、それでも有難くその好意は受け取ることにした。
その時だった──。
玄関が開く音がする。そして「唯奈―っ!! お前帰ってきたのか!?」という怒鳴り声と私たちと目が合うのはほぼ同時。
何故かこの時間に基樹が戻ってきたのだ。
これぞまさに鉢合わせ。
「はぁ!? どー言う事だ! こいつ誰だよっ!!」
目が合って最初の言葉がそれだった。そして靴も脱がずにズカズカと部屋に土足で入り込み、私たちの傍まで駆け寄る。
私はビックリして、咄嗟に琉唯くんを庇って前に出た。
最初のコメントを投稿しよう!