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24.私の紫陽花姫、帝国になど行かないで私の側に居てください。
「レイモンド・サム、アゼンタイン侯爵令嬢と婚約関係にありながら私と不道徳な関係を持ったことを公表します。そのことを公表されたくなければ、今すぐにアゼンタイン侯爵令嬢との婚約を解消しなさい!」
聞いたことのない強い口調でレイモンドに迫る、ビアンカ様に呆気にとられる。
「待ってください。そんなことを公表すればビアンカ様の名誉にも傷がつきます。私は半年後にはレイモンドと婚約を解消するので、ご自分のことだけを考えてください」
私はビアンカ様を必死にひきとめた。
「エレノア、本当にあなたには取り返しのつかないことをしたわ。私は帝国に移住して次の帝国の要職試験を受けるつもりよ。もう、男に頼るような生き方はしたくないの」
私の頬を撫でたビアンカ様の指に涙の滴がついていた。
信じられないことに私は人前で泣いていたらしい。
ビアンカ様が2年以上の時を経て、外に出てきてくれたのが嬉しかったのだ。
「美の探究にひきこもったことにしようとしたのに、ビアンカ様は新帝国法について学んでおられたのですね。私が浅はかにビアンカ様の門出を邪魔してしまいました」
私はビアンカ様が失恋のショックで引きこもっているものと思い込んでいた。
弱々しく守ってあげたくなるような彼女の見た目に惑わされていたのかもしれない。
「エレノア、私にとって貴方ほど大切な存在はいないわ。血の繋がりなんか関係ない。レイモンドを追い払いたい時はいつでも言うのよ、私は彼を失墜させるだけの武器を持っているから」
ビアンカ様が私のことを強く抱きしめてきた。
血の繋がりなんて関係ないと言ってくれたのが嬉しくて私はまた頬に熱いものが流れるのを感じた。
ビアンカ様が強風の如く去って、呆けていたらレイモンドが横から私をつついてきた。
「私の知っているリード公女とは別人でした。誰ですかあれは。大人しく扱いやすい女だと思っていたのに、別人のように激った目をしていて正直怖かったです」
レイモンドはなぜそんなことを私に言ってくるのだろう。
怖い思いをした自分を慰めてほしいとでもいいたげで意味が
わからない。
でも、私が泣いたのを知らないふりしてくれているのだけは嬉しい。
「レイモンド、あなたの方がずっと怖い人間ですよ。あなたが女性にしてきたことは虐待と変わらないです。自分が加害者だという意識を持って、これからは民のために残りの人生を費やし自分の罪を償っていくという気持ちでいてくださいね。ビアンカ様は帝国に移住するのですね。私もアカデミーを卒業して時間ができたら一度帝国に行きたいと思っています」
海を眺めながら私が語っていると、目の前に紫陽花の花束が差し出された。
「私の紫陽花姫、帝国になど行かないで私の側に居てください」
レイモンドが懇願するように言ってきた言葉に私はため息をついた。
「私、その紫陽花姫という通り名は気に入ってないです。私は自分をお姫様だと思ったことは一度もありません。孤児院の野良猫と言われる方が嬉しいです。私のこと正しく言うなら孤児院に紛れ込んだ野良猫ですね。でも、孤児院に行って正解だったかもしれません。アゼンタイン侯爵夫妻のような優しい両親に引き取られて、ルークのような可愛い弟もできて、私はとても幸せになれました。ちなみに私が帝国に行きたいと言っているのは魅了の力の研究がしたいからです。私のような悩みを持つ子供をこれ以上増やしたくないのです。今、海の匂いを嗅いでいて気がついたのですが、首都のカルマン公爵邸は珍しい赤い花に囲まれていてその花の匂いが充満していました。あの花に私は秘密があるのではないかと睨んでいます」
レイモンドは私に紫陽花の花束を毎度プレゼントしてくるようになった。
赤い薔薇の花束を嫌いと言ったことは覚えているようだ。
「帝国の首都のカルマン公爵邸は、今、刑務所になっているのですよね」
レイモンドの言葉に思わず私は苦笑いした。
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