26.僕たちは両思いなのだ。(フィリップ視点)

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26.僕たちは両思いなのだ。(フィリップ視点)

「アゼンタイン侯爵令嬢、運ぶのを手伝わせてくれるとありがたいのですが。 エレノアが50冊以上の本を重ねて持って階段を上がっているのが見えた。 孤児院の野良猫という呼び名で彼女を侮辱する無礼な人間もいるし、いじめられたりするのだろうか。 「フィリップ王子殿下!」 エレノアは僕の姿を見ると、顔を赤くしてふらつき全ての本を落とした。 彼女の立ち居振る舞いはいつだって完璧なのに、僕の前だけ挙動不審だ。 彼女はサム国の貴族令嬢では誰も太刀打ちできない見惚れる程美しい完璧な帝国の高位貴族の振る舞いを身につけている。 4歳にはサム国の孤児院にいたのだから、それまでに身につけた立ち居振る舞いということだ。 アゼンタイン侯爵が孤児院から養子をとったと聞いた時は驚いたが、彼女を見て腑に落ちた。 エレノアはどうしてサム国の孤児院にいたのだろう。 「申し訳ございません。お怪我はございませんか?」 エレノアがしゃがみ込んで必死に本を拾っている。 僕がしゃがみ込んで手伝おうと、明らかに焦って恐縮していた。 「どうして、1人でこんな量の本を運んでいたのですか?」 いじめられているのであれば助けたいと思って僕は尋ねた。 「腕を鍛えたくて図書館の整理の仕事を申し出たのですが、このようなご迷惑を掛けることになるなら小分けにして運ぶべきでした」 彼女は僕と話す時だけ視線を合わそうとしない。 他の人間と話す時は瞳から感情を読もうとするように、じっと相手の目を見て話す。 彼女は僕のことが好きだと思う、僕たちは両思いなのだ。 兄上は長きに渡り女遊びしかしてこなかったのだから、当然エレノアが僕のことを好きなことにも気がついているはずだ。 「どうして腕を鍛えたいと思ったのですか?」 腕を鍛えたいというのが、いじめを隠すための言い訳なのではないかと思い本を拾いながら彼女に尋ねた。 「剣術の稽古をしているのですが、なかなか上達しないのです。そもそも、腕の筋力が足りないのではないかと思いまして」 エレノアはちらっとだけ僕を見てくれた。 彼女の瞳に、明らかに恋をしている僕の顔が映っている。 「そういえば、僕に騎士の誓いをたててくれましたね」 僕の言葉に、これ以上ないくらい顔を赤くしたエレノアはせっかくまとめた本をまたバラ撒いてしまった。 「申し訳ございません。王子殿下、すぐに拾い直します」 彼女が泣きそうな顔になって必死にまた本を拾い出した。 「アゼンタイン侯爵令嬢、ここはもう人に任せましょう。実はあなたに渡したいものがあるのです。ついて来てくださいませんか?」 僕は立ち上がり、彼女をエスコートしようと手を差し出した。 彼女は勢いよく立ち上がり、僕の手に手を添えてくる。 手がかすかに震えていて、彼女が緊張をしているのが分かった。
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