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28.どうして、そうなるんだエレノア!(ハンス視点)
「エレノア、13歳のお誕生日おめでとう」
俺はいつものように紫陽花の花束をエレノアに渡した。
彼女の心の負担にならないプレゼントはこれしか思いつかない。
「ありがとう、ハンス」
エレノアが幸せそうな笑顔で花束を受け取る。
俺は彼女の隣にいるレイモンド王太子殿下を思わず睨みつけてしまった。
彼は本当にリード公爵家にしたことに、何の罪の意識もないようだ。
俺の存在を意識することなく、エレノアを愛おしそうに眺めている。
姉上は公爵家を出て、帝国のアツ領に移住した。
それは、全て彼が気まぐれに姉上に手を出したせいだ。
姉上は女公爵になる為に必死で勉強し、彼に手を出された後は王妃になることを夢見た。
婚約者指名されず八方塞がりになると、妹のように可愛がっていたエレノアを殺害しようとまで追い詰められた。
自分が衝動的にしてしまったことに、ショックを受け食事も喉の通らない日々を過ごしていた。
俺は毎日のように姉上にエレノアが彼女を大好きなことを伝えた。
姉上のことを誘拐されてもまだ理想の女性だと言っていること、彼女が立ち直らないのを誰よりも心配しているのはエレノアだということを話し続けた。
王太子殿下に弄ばれた公女に縁談の話などくるはずもない。
姉上は新帝国法を必死で勉強し、次の帝国の要職試験に備え早々と帝国に移住して行った。
「また、2曲踊ってる⋯⋯」
俺はまたレイモンド王太子殿下がエレノアと2曲続けて踊っているのを冷めた目で見ていた。
高身長で21歳になる王太子殿下と社交界デビューしたての小柄なエレノアはお似合いとは言えない。
エレノアはダンスも完璧に優雅にこなすのに、王太子殿下と踊っている時は身長差がありすぎて踊りづらそうにしていた。
「フィリップ王子殿下、今日はエレノアと踊ってあげてくださいね。多分とても喜ぶと思いますよ」
俺はエレノアと王太子殿下をじっと見つめているフィリップ王子殿下に話しかけにいった。
「リード公子も彼女と踊りたいのではないですか?」
フィリップ王子殿下は謙虚で控えめで非常に上品な方だから、エレノアが2曲踊って疲れているのではないかとダンスを誘うのを躊躇うと思った。
「エレノアの誕生日だから、彼女が踊りたい人と踊って欲しいのですよ」
エレノアはフィリップ王子が好きで、彼も彼女が好きだと思う。
でも、2人は絶対に結ばれない。
ただでさえ、国王陛下が兄の婚約者だった女性と結婚したことで在らぬ噂がたくさんたった。
たとえエレノアとレイモンド王太子殿下が婚約破棄になったとしても、フィリップ王子と結婚することにだけはならない。
2代連続で王族の弟が兄の元婚約者と結婚するなとということがあれば、スキャンダルになる。
「ハンス、僕はいつも君みたいになりたいと思っているよ」
突然、微笑みながら俺の名前を呼んできたフィリップ王子殿下の美しい表情に心臓が飛び跳ねた。
「これは、エレノアも好きになるわ⋯⋯」
エレノアをダンスに誘いに行く彼の後ろ姿を見ながら、俺は思わず呟いた。
「どうして、そうなるんだエレノア!」
俺はフィリップ王子殿下とエレノアが踊る姿を眺めて頭を抱えた。
明らかに彼女は緊張しまくっていて、王子殿下の足を踏みまくっている。
俺は両思いの2人が何とかくっつく手段はないかと考えた。
俺は2人のことが大好きなのだ。
会場を見回すと、近寄りがたいくらいに2人のダンスを睨みつけているレイモンド王太子殿下がいた。
「あの姿を見ても、王太子殿下は何も感じないのですか?」
俺は彼に近寄り、不敬だと分かっていても囁くように話しかけた。
男女のことに疎い俺でも気が付く両思いの2人に、女遊びばかりしてきた彼が気が付かないはずがない。
彼が自然にエレノアの婚約者の座をフィリップ王子に譲ってくれないかと考えたのだ。
「リード公子、お久しぶりです。お姉様が元気になられたようで良かったですね。エレノアは私の婚約者ですよ。私と踊っている時の方が、上手に踊れていますね。フィリップとは相性が悪いようですね」
涼しげな流し目で俺を見下ろしながら言う王太子殿下の言葉に、俺は込み上げる怒りを必死に耐えた。
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