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えみりちゃんの悩み事
「うっひょおおおおおおおおおおおい!やったぜえええええええええええ!」
「うっさい!」
自宅リビングにて。
俺のあまりの喜びっぷりに、姉はドン引きしていた。そしてついでと言わんばかりに空手チョップを後頭部に決めてくる。昔から思っているが、マジで痛いのでやめてほしい。そのたびに悶絶して床に這いつくばる羽目になるのだから。
式部真音。それが姉の名前である。弟の俺、式部凛音とは十五歳も年は離れている。
彼女も今年で三十八歳で俺は二十五歳。彼女は十年前に結婚して、現在少し離れた町で暮らしているのだった。今は八歳の娘がいる。俺にとっては姪っ子というわけだ。
この姪っ子ちゃんを、俺は猫っ可愛がりしているのである。
しかし、ここのところはコロナやら親戚の事情やらが重なり、もう四年も会えてはいなかったのだ。久しぶりに彼女と会える。甥として、こんなに嬉しいことはない。
「姉貴姉貴、ありがとう!久しぶりにえみりちゃんと会えるんかあ。俺超感激だわ!はすはすしよう、はすはす」
「やめろ変態親父」
「オヤジ言わないで!?俺まだ二十五歳だよ!?」
「その態度がオヤジくさいと言っている。イケメンならなんでも許されると思うなよ我が弟」
「いったい!二回目のチョップ!」
そんなこと言っても、と俺はぶーたれる。
いかんせん、社会人になってから俺は恐ろしく忙しい。ここのところ家(ちなみに俺はまだ実家暮らしだ。だって職場から近いし)と職場の行き来しかしていない。コロナ渦ではテレワークとオンラインミーティングが主だったために多少楽だったのだが、ここ最近また顔を合わせての打ち合わせやら商談やらが増えてしまった。ついでに、やりたくもない上司との飲み会もである。年末も近づいてきたので、まったく面倒といったらない。
そんな中、俺にとっては久しぶりに会える可愛い可愛い姪っ子との再会は癒し以外の何物でもないのだ。最後に見た時、彼女はまだ幼稚園児だった。嬉しくて嬉しくて、一緒に遊びまくったのをよく覚えている。
「人の話を聞きなさいよ、馬鹿」
姉はじーっと目を細めて、俺に言ったのだった。
「正月にえみりを連れて、この家に戻ってくるってとこまでは理解したわね?その次が問題なの。そのえみりなんだけど」
「うん」
「凛音。あんたに会いたくないと言ってるんだわ。心当たりない?」
「わっちゅ!?」
それはまさに、一瞬の出来事。天国から地獄に、俺は突き落とされる羽目になったのだった。
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