昭和の人間ー愛犬との七年間ー

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 次の日からコンカギのいない生活が始まった。相変わらず僕は宿題をしなくて、走れなくて、一人で遊んでて、変わったのはコンカギがいなくなったことだ。辛いとき悲しいとき、庭で静かにしているコンカギの背を撫でることもできない。ただ庭の犬小屋はそのままだ。幽霊でもいいからコンカギの姿を見たかった。そんな願いは叶えられることもなくて、ただ寂しい毎日を過ごしていた。  ただ、コンカギがいなくなって一月経った頃、おじいちゃんが子犬をもらってきた。その子を抱いたとき、つい僕は涙を流した。 「ねぇ、この子もコンカギにするの?」 「いや。コンカギじゃなくていい。いい名前をつけろよ」  子犬に頬ずりをする。  コンカギにもこんなときがあったんだ。僕の知らない赤ちゃんのコンカギがいたんだ。でも、この子はコンカギじゃない。コンカギじゃない名前をつけるんだ。 「ずっと側にいてよ。いい名前考えるから」  コンカギの思い出はずっと僕の中にある。お兄ちゃんよりお兄ちゃんだった大好きなコンカギは、僕の中ではたった一匹しかいないんだ。
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