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第1話.大地震
土曜日の午後3時。
いつもより何故か早めに仕事が終わり、佐藤遥斗はここから少し離れた場所に位置する自宅に帰っていた。
家では今年高校1年生になった可愛い妹──佐藤紬が待っている。
遥斗は自他ともに認めるシスコンで、今も足早に帰っていた。
──と、その時。いつものように地震が起こった。
そう、ここ一ヶ月、日本だけでなく世界各地で頻繁に地震が起こっている。と言っても、大きい地震なわけではなく、ほとんどが震度2くらいだ。地震がほとんど起こらない国では当初、大騒ぎになったのが嘘のように慣れてきてしまっている。
だとしても異常事態には変わりないため、世界中の国々が原因解明をするべく調査を進めている。
ただ、どこにでもいる社会人の1人に過ぎない遥斗は特に気にする様子もなく、早く紬に会うことだけを考えて歩いていた。
☆
「ただいま〜」
遥斗の家は、目に見える限りは1,2軒くらいしか家が見えないような位置にある。
と言っても、仕事場から30分程度の場所にあるので、そこまで不便ではない。
「あっ! お兄ちゃんおかえり〜!」
そう言って、紬はリビングからその美しい顔をのぞかせ、腰近くまである長いストレートの黒髪を揺らしながら、遥斗に手を振る。
中学生頃からいわゆる「おかえりぎゅー」はなくなったが、天使なのには変わりない。
(オーケー、仕事の疲れ全部吹き飛んだわ)
遥斗は、「お兄ちゃん特権」で紬の頭をぽんっと撫で、仕事のバッグなどを片付ける。
「そういえばお兄ちゃん。さっきも地震あったけど、大丈夫だった?」
テレビで先程の地震の報道をしていて思い出したのか、紬がそう聞いてくる。
「この通り、ピンピンさ。紬も大丈夫だったか?」
「わたしもへーきだよっ!」
(はいかわいい)
そんなふうに、いつものように仲睦まじく会話をしている。
──その時だった。
今までに経験したことのないような地震が襲う。
「ッ!? 紬ッ!!! 今すぐテーブルの下に隠れろ!!!」
すぐさま反応した遥斗は、すぐに紬に声をかけ、自身も近くにあるテーブルの下に隠れようとする。
「え……?」
今まであった地震との規模の違いに、紬はとっさに反応できずに遥斗に視線を向ける。
それに気づいた遥斗は、テーブルの下に隠れようとする行動をすぐにやめ、紬の方へ向かう。
「クッ……!」
頻繁な地震が発生し始めてすぐ、家によく1人でいることが多い紬のことを心配して人が少ないこっちに引っ越してきたが、遥斗の金で買えたのは新築ではなく年代物の家。
そのため、今にも崩れそうなキシキシッという音を立てていた。
遥斗は紬を抱きかかえテーブルの下に隠れたが、家が崩れた時の重さでテーブルが耐えられないかもしれないと考えた。
しかしそれに気づく頃には家の倒壊が始まりかけていて、外に出ることは不可能だった。
「いいか紬! これから何があっても俺がお前を守るからな!!!」
「え……? あ……」
まだ紬は事態の完全把握には至ってなかったが、遥斗はむりやり体制を変え、紬の上で四つん這いになった。
中・高ともに運動部に所属していた遥斗は、少しは重さに耐えれるというとっさの判断でこの体勢になった。
──そして間もなく、家が倒壊した。
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