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「しかし。ある意味、もったいないことですな。これだけの力を。みすみす、取らずに終わらせてしまうとは。なんとか手なずけ、御することは――」
「馬鹿め。愚かな兄は、御せると思っていたのだろう。が。見よ。その結果がこれだ。愚にもほどがある。貴様も同じ愚を、またここで繰り返すのか。」
ひどく目つきの厳しい黒兜の武将が、とりまきの誰かに吐き捨てた。ヤマガタトモネを名乗るその武将は、あたしが焼いたヤマガタの、たぶん弟なのだろう。隣国の主をまかされて、長らく哀州をはなれていたらしい。が。戻って、いまこの雪原の、ふりしきる平雪の中でサムライたちに声をとばして命令を出している。
その雪野原のただ中に。一本立てられた長い杭に鎖で厚くしばられて。
あいつはそこに立たされた。立たされていた。それでもあいつは、何かに向けて祈っていたな。声が、唇から漏れていた。わたくしの罪、とか。このあやまち、だとか。ま、あたしにとっては意味のない、空疎な言葉のつらなりがそこにちらほら、聞こえていたよ。
あたしはそれでも根負けせずに。あいつにむかって声をかけたよ。
おい。聞け。たしかにあたしは、やりすぎた。たしかにおまえも、やりすぎただろう。
けど。
いま、また、しばられ、わけのわからぬどこぞのサムライどもの好きにさせるのは。これがおまえの求めることか。これがあたしら二人の。心がのぞむことなのか。
十何度目かに同じ文句をあたしが投げたとき。あいつははじめて大粒の雪の中で、あいつの瞳の上に宿ったあたしに心をむけて。そして言ったよ。こんな言葉を。
おねがい。もう、何も、話さないで。おねがい。もう何も、言わないで。
そしてもう、何も、壊さないで。もう何も焼かないで。
おねがい。わたしが、あなたを、嫌いになってしまわないように。
わたしはあなたを、嫌いになどは、なりたくはない。
大好きなあなたの綺麗な記憶を。ずっとどこまでも、あたしがしまって持っていけるように。
だから。おねがい。もう何も言わないで。もう何も壊さないで。
言われてあたしは、黙ったよ。
だって黙るしか、ないじゃないか。
『あなたを嫌いに、なって、しまわないように』、か。
堪(こた)えたよ。堪えた。それを、あいつの口から言われてしまうとな。
そして雪原の向こうでは、先込め式の長鉄砲を準備している十人ばかりのサムライたちだ。
時間は、あまり、ないだろう。やつらはあいつを撃つだろう。
炎の魔女を。ここの今の雪原で。このまま滅ぼして、終わりにしたいのだろう。
くそっ。くそっ。
なんでだ。なんでこんなことになる。
あたしは、あたしは。
ただ、あいつと。ただ、おまえと。二人で遊びたかっただけなんだ。
おまえとあたしでいつまでも、世界の色を見たかっただけなんだ。踊りたかっただけなんだ。
なぜ、なのに、こうなる。
なぜなんだ。なぜなんだ。おしえてくれ。おしえてくれ。
あたしはおまえを、愛したかった。あたしはおまえに、愛されたかった。
あたしはおまえを、見ていたかった。あたしはお前に、ずっと見続けて欲しかった。
ただそれだけなのに。それだけのことが。なぜ、こんなに遠いひねくれた場所に、
あたしら二人を連れてきてしまうんだ。なぜなんだ、おい!
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