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旅は道連れ
「あのー。ごめんなさい。もしかしてセブンスポーカーのワールドチャンピオンの方では?」
セブンスポーカーとは公式ギャンブルの一種で、ワールドチャンピオンともなれば、それで十分に生計が立てられた。
「たしか。コールさん。だったかしら」
女性は相手も目立ちたくはないのだろうと、男性の肩口に近づき声をかけていた。問いかけられた男性は新聞紙をずらし覗かせた目を女性に向けた。
「セブンスポーカーに、お詳しいのですか?」
「先日、大会を見に。そういえば出てらっしゃらなかったですよね」
「ええ。大事な用があったもので、バニラという女性に代わってもらいました」
「まあ。あの優勝された方? やっぱり類は友を呼ぶのかしら。そういえばコールさん。探偵をなさっているって本当?」
すっかり背もたれから体を離した女性は、身を乗り出して矢継ぎ早に質問を投げ掛けた。
「ええまあ。そちらが本職です」
すっかり新聞紙を被るタイミングを失ってしまったコールは、諦めて椅子に座りなおすと新聞紙をたたんだ。
「まあ。ワールドチャンピオンですのにファーストクラスにも乗らず、お仕事もなさってるなんて。コールさんは奥ゆかしい方ですのね」
女性は声のトーンを少し落とした。サングラス越しのその微笑には、どこか影があった。
「眠っているところを邪魔してしまって、すみません。もし、よろしかったら。到着まで私の話を聞いていただけませんか。と言うより、探偵として考えを聞かせていただけませんか?」
「新聞は後でも読めますから。私で良ければ」
コールにとって移動で縛られた時間は無駄でしかなかった。だが、その間に無駄な事をしても無駄ではないか。そう思ったコールは快く提案を受け入れた。
「あのー。新聞を顔に被せて読まれるんですか?」
「いえ、それはただのスタイルです。一度目を通せば、いつでも読めます。分かりやすく言えば、瞬間記憶でしょうか。それにしても、あなたの興味の持ち方は、私の助手に似ていますね。えーと?」
「ごめんなさい、ご挨拶があとになってしまって。私はマチルダ。です」
『皆様、当機は離陸いたします。シートベルトをお確かめください。小さいお子様は膝の上でしっかりとお抱きください。ひとりでお座りのお子様のシートベルトも合わせてお確かめください』
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