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「当日の経緯は、喜三郎宅に三人が訪れた事から始まりました。考古学者の藤原は、ブルーノマーを然るべき場所に保管か展示するべきだとか。投資家のスタンリーは、所有権もしくは仲買の権利でしょうか。そして弁護士の高峰は、資産保持の固守。そのあたりを言い合わせたうえで喜三郎氏説得の場を設けたのでしょう。スカーレット夫人が喜三郎氏に声をかけに自室に向かいます。そして、まず皆で食事をしようと言われ支度を始めました。家政婦の五十嵐が夫人に言われるがままテーブルのセッティングを始めると、まず席を立ったのはスタンリーでした。彼にとってはビジネスですし、時間が惜しかったのでしょう。しかし喜三郎氏に食事の後にするよう言われ戻ってきました。次に高峰が席を外し、次に藤原と、それぞれが喜三郎氏の自室を訪ねましたが対応は同じでした。最後に食事の支度が整い五十嵐が呼びに行くと返事がなく、セキュリティを呼ぶ騒ぎとなり事件が発覚しました。三人が訪問後の記録では、部屋の扉のロックは四回解除されています」  ここまでの確認を含め顔を向けたコールにマチルダは頷いたが、サングラス越しの表情に感情はみえなかった。 「ほとんどの事件において動機など意味がありません。第三者が理解するための後付けに過ぎず、犯人自身も聞かれなければ考える事もないでしょう。この事件で大事なのは、見えている事実だけだと私は思います」 「見えている事実?」 「そうです。喜三郎氏の刺し傷は前と後ろの全身です。自殺なら痛みに耐えて全身を刺す事に意味はありません」 「そうですよね!」 「しかし容疑者の中に犯人がいたとしても、サイコパスでない限り全身を刺す意味がありません。怒りでも恨みでも、いったん手を止めてしまえば理性が戻ります。わざわざひっくり返して刺したりしません。もしも、この密室で全身を刺すがあったとするなら。それは喜三郎氏本人だけです」 「そんな……」
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