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ブルーノマー
『ご案内いたします。 東京国際空港にはあと三十分で着陸します。東京国際空港の天気は晴れ、気温は十九度です。この先十五分後にベルト着用サインが点灯する見込みです。化粧室は早めにご使用ください。ベルト着用サイン点灯後、化粧室はご使用になれません。 あらかじめご了承下さい。また、ただいまの時間をもちまして機内販売を終了します。 お買い上げありがとうございました』
「ごめんなさい、付き合わせてしまって。どうも、ありがとうございます」
寛いでいた人々が動き出すと、マチルダは考え込むように座席に深く座った。それを見たコールは、前を向いたまま独り言のように言葉を続けた。
「それと。邪推に邪推を重ねて言わせていただければ、喜三郎氏が持っていたというブルーノマーは宝石ではないと思います」
「宝石じゃない?」
「そうです。喜三郎氏にとってのブルーノマーとは、スカーレット夫人。あなただったのではないでしょうか」
「まあ」
マチルダはサングラスを外すと、青い瞳でコールを見た。
「知っていたんですね」
「いいえ。ただファーストクラスを使わない訳ありの女性だと」
「それはどうして」
「セブンスポーカーの大会に行かれたと仰っていましたが、私の事は公式のパンフレットで知ったのでしょ。荷物の中に見えましたから。そしてパンフレットが配られるのはVIPのゲストだけです。あの大会は完全シークレット対応でゲストに手厚いですから」
「ええ。久し振りに家から出たわ。独りだと案外バレないものね」
「人はそれほど他人に興味を持ちませんよ。あなたに対してのそれは、あなたを取り巻くお金に向けてです」
「ほんと、そうね。それで、どうして私だと?」
悲し気に微笑んだスカーレットは、気分転換のようにコールに説明を求めた。
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