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愚者の宝珠
「喜三郎氏の自殺の原因に辿り着いたからです。あなたが言った未解決とは、他殺だという意味ではなく。喜三郎氏が何故、自殺する必要があったのか。その気持ちが分からなければ、自分の中で事件が解決しない。そんな想いを抱き続けるのは、刺してしまった妻の他にいないでしょう」
スカーレットはハンカチを取り出すと、瞳を覆って小さく何度も頷いた。
「すみません。つまらない話をしてしまいましたね。もう少しドラマチックに推理をした方が良かったですか」
「いいえ。私の我儘にお付き合いいただけて嬉しかったです。もしも東京で困った事があったら連絡ください。どんな力にでもなりますから」
「ありがとうございます。その時は、是非!」
※※※※※
機内から出てゆく人の波に乗って、スカーレットは去って行った。それを見送ったコールは身支度を整えた。
「まったく。愛だとか、想いだとか。どうして人は簡単に盲目の愚者になってしまうんだか。理解できないな」
つぶやきながら空港に降り立ったコールだったが、行動に理由はいらないとだけは思えていた。
〈Fin〉
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