テイトが来た理由

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テイトが来た理由

 私は山本百合。安曇重工の工場部門で働く夫の浩二の転勤に合わせ、昨年、東京からこの大分県日田市に引っ越して来た。この地域は日本の最高気温を記録したりして、東京のニュースでも紹介されていたから、夏はとても暑いのは知っていた。でも盆地で内陸性気候だから冬も氷点下十度近くまで下がるのには驚いてしまった。九州に居るのに生まれて初めて早朝に水道管が凍って水が出ない日を経験したりもした。  実は私達がテイトを飼うことにしたのはある事情が有った。  娘の理紗は私と同じOh型と呼ばれる血液型(稀血(まれけつ))を持っている。このOh型は日本には百人しか居ない特殊な血液型で、輸血する様な事態に陥った場合は血液の入手困難性から命を失うリスクに見舞われる。この為、私も小さい頃から怪我をしない様に細心の注意を払って生活して来た。でも高校生の時に交通事故に遭って頭から出血した事があった。その時、自分の頭を触るとドロッとした血が大量に出ているのを感じて私は気絶してしまった。その時は何とか輸血用の血液が間に合って手術も成功したので回復する事が出来たけど、その後の私は血を見るのを本当に恐れる様になってしまった。  だから娘も怪我をするリスクを考えて出来るだけ外でも遊ばせず、幼稚園にも通わせていなかった。結果この地に引っ越した後も娘には友達も出来なくて寂しい想いをさせてしまった。そんな彼女の寂しさを紛らわす為にペットを買おうと考えて、今回テイトをお迎えする事にしたのだった。  テイトは長くペットショップに居たけど、トイレ以外の(しつけ)が出来ていなくて、お家に来た当初は無駄吠えしたり、直ぐに切れて噛み付いたりと酷い状態だった。  特にテイトが来て三週間目に、彼を後ろから抱き上げ様とした娘の右手に噛み付いて娘が血を流した時には、私はパニックになりテイトに激怒した。でも娘はテイトをギュッと抱きしめて、 「私が驚かしたのが悪いの。テイトを叱らないで!」  と真っすぐに私を見つめた。  私はハッとして冷静になると、優しい我が子をテイトと一緒に抱き締めた。 「ごめんね。ママ、怒っちゃって。理紗は偉いわね。直ぐに手当てしましょうね」  小さく頷いた娘の右手をテイトは申し訳なさそうに舐めていた。  それからテイトは理紗にベッタリで、無駄吠えも減って噛み付く事も無くなった。そして二人は本当の姉弟の様に仲良しになってくれた。  その後、一歳を超えたテイトは、鼻黒の顔が全てオレンジに変わり、すっかり可愛い大人のポメラニアンになった。
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