理紗の危機

1/2
前へ
/12ページ
次へ

理紗の危機

 私はパジャマのまま押し流された自宅の場所に駆け寄った。近づいて家の残骸を見上げると余りの惨状に声も出ない。  私が呆然としていると、その残骸から男性が出て来た。 「……浩二さん……?」  それは真っ黒になった夫だった。 「百合、お前も無事でよかった」  夫に駆け寄るとギュッと抱きしめた。彼は泥だらけだったけどそんなことはどうでも良かった。 「……浩二さん、無事で……」  でも彼は首を大きく左右に振っている。 「理紗が見つからないんだ。子供部屋も押し流されていたから探しに行ったんだけど、土砂や岩が一杯で理紗のいる場所に近づけない。畜生!」  その言葉に全身を衝撃が走る。涙が止めどなく溢れてくる。何とか娘を助けないと。 「私も見てくるわ」  そう言うと彼が出て来た穴から家の残骸に潜り込んだ。携帯のLEDライトに照らされた家の中は土砂が一杯で、五メートル程先の夫のベッドの場所までしか近づけない。その先は岩や土砂で埋めつくされていて、隙間はあるけど人が通れる大きさじゃない。でもこの先に娘の子供部屋が……。 「理紗! 聞こえる? 返事して!! 理紗!」  その隙間に向かって何度も呼びかけてみた。でもいくら待っても何の反応も無かった。  その時だった。何かの音が聴こえて来た。それは小さな音だけど、耳を澄ますとワン、ワンって聴こえる。 「テイト! 聞こえる!? こっちよ!」  私は再びその隙間に向かって叫んだ。  暫くするとゴソゴソという音がして、オレンジ色の物体が狭い隙間から飛び出して来た。  それはリビングのケージに居た筈のテイトだ。 彼は口に紙を咥えていて私の胸に飛び込むと頬をペロペロと舐めた。口に咥えていた紙が足元に落ちる。 「テイト、無事だったの? 良かった。ねぇ? 理紗を見た?」  彼は私の腕から抜け出すと床に落ちた紙をもう一度咥えた。私はその紙を手に取った。  一部が赤い血に染まっているその紙には小さな文字が書いてあった。 ―まま きこえる いたいよ さむいよー  習ったばかりのひらがなで書かれたその文字を読んで私は嗚咽を漏らした。痛いという言葉と紙に付いた血を見て気が狂いそうだった。娘は怪我をしている。稀血の彼女にとってそれは命の危機だ。  再び隙間に向かって叫ぶ! 「理紗!! テイトがここに来たわ。大丈夫、今、助けるから! 待ってて!!」
/12ページ

最初のコメントを投稿しよう!

49人が本棚に入れています
本棚に追加