理紗の危機

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 私はテイトを抱えたまま助けを呼ぶ為に家の残骸の外に出ようとした。しかしテイトは私の腕を振り解こうとしている。 「テイト、どうしたの?」  テイトを床に置くと、彼は尻尾を振って「ワン」と吠えた。そしてさっきの隙間にもう一度入って行った。私は胸が一杯になっていた。彼は娘のそばに居てくれるんだ。  娘は寒いと書いていた。テイトが一緒に居てくれれば、どんなに心強く暖かいだろう。  私は頷いて這いながら家の残骸の外に出た。外はすっかり明るくなっている。 「百合。理紗は?」  硬い表情の夫の質問に首を左右に振ると娘の書いた紙を彼に渡した。それを見た夫も嗚咽を洩らす。 「でも理紗はちゃんと生きている。テイトが一緒に居てくれるし、絶対助けないと!」  私はそう言うと、(ふもと)の町の方を振り返った。そこには多くの消防車とパトカー、救急車も見えた。そして中学校の校庭に陸上自衛隊のヘリコプターが着陸しているのも見える。  私は走って来る消防士に駆け寄って声を張り上げた。 「娘が閉じ込められて怪我をしています! 娘は特殊な血液なので早く助けないと死んでしまいます。お願いします!」 「分かりました。県知事が自衛隊に災害派遣要請をしました。既に陸上自衛隊が到着していますので、彼らに救助を依頼しましょう」  そう言うと消防士は無線を取った。  直ぐに二名の屈強な自衛隊員の方がやって来た。私が状況を説明すると彼等は頷いて、電動の穴掘りドリルを抱えて自宅の残骸に潜って行ってくれた。  彼等が潜って直ぐに中からドリルで掘削する音が聴こえて来た。暫くするとその音が止んだ。 「神様、お願い。理紗を助けて……」  私は天に祈った。横で夫が「きっと大丈夫だ」っと呟いたのが聴こえた。
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