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新しい家族との出逢い
「ねぇ、ママ。急いで!」
ペットショップの自動ドアを抜けると娘は一目散に店の中に駆け込んでいく。
「理紗! 走っちゃダメよ」
急いで娘の背中を追いかけると彼女は店の一番奥にある子犬の販売エリアに向かって行った。そしてガラスケースの前に置かれたケージを覗き込んでいる。その瞬間『ワン! ワン!』と激しく吠える声が聴こえてきた。
「ママ、まだ居るよ。良かったね」
外に出されたケージを覗き込んだ娘が満面の笑みで振り返った。
そのケージの中にはポメラニアンの子犬が私達を見上げて尻尾を振りながら吠えている。既に生後八カ月のその子は、ちょうど大人への移行期である『猿期』に入っていて、鼻の周りが真っ黒な『泥棒顔』。でもそれがとても可愛いと私と理紗は思っていた。
「こら! ポン太! 吠えちゃダメって言っているでしょう!」
店員さんが諫めても子犬は吠えることを止めない。
「すいません、この子、ブリーダーの所で何か怖い目にあったみたいで、知らない人を見ると吠えちゃう癖があって……」
恐縮する店員さんを見ながらも私達の意志は決まっていた。私と理紗は二週間前からこの子犬を狙っていた。そうこの子に一目惚れしてしまったの。でも今まで私達はペットを飼ったこともなくて、夫とも相談して、もし今日この子がまだ店に居たらうちの子にしようって決めてお店にやって来ていた。そう理紗の弟として……。
店員さんがその子犬をケージから出すと、彼は吠えるのをやめて私達をジッと見ている。娘がその子の頭に手を出そうとすると店員さんが声を掛けてくれた。
「最初から頭を触ると怖がっちゃうわ。顎や首のあたりを撫でてあげて、それから手を頭へもっていって優しく撫でてね」
娘は小さく頷くと子犬の顎の下を撫でている。彼は気持ちよさそうに目を瞑っている。そして彼女はゆっくりその子の頭を撫でた。
「よかった。仲良くなれそうね。あなたは私の弟『テイト』だよ。私はお姉ちゃん!」
そう娘が言うとテイトは尻尾を大きく振って彼女をペロペロと舐めた。
「キャア! くすぐったいよ!」
娘が弾ける笑顔を見せてくれた。
「さあ理紗、テイト。お家に帰ろうね」
私は娘の手を引いてテイトを抱えてペットショップを出た。
外は夏の日差しが眩しい。抱えたテイトが今度は私の顔を舐める。それは太陽に火照った私の頬には本当にヒンヤリとした感覚だった。
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