平和に潜む闇

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 暫くスマホと向き合い、写真にうっとりしていると妙な視線。無言でスマホをパーカーのポケットにしまい、何もなかったように歩き出す。曲のボリュームを下げ、確認するようにチラッと振り向くと不自然に立ち止まるスーツ姿の男。「あぁ……」と心の声が漏れ、ヘッドフォンを外し周囲の音や話し声に耳を傾けた。クラクションや走行音、店のBGMや電気のごく僅かな点滅……と普通は気づかない音も聞こえる。あの男の独り言でも聴こえるか――と期待していたが上手くはいかず舌打ち。 「俺じゃない。一時間ぐらい着いてきてるのに。知らないし、誰あの人」  ガムをクチャクチャと音を発て下品に噛んでいると、前を歩く同じ電車から下車したモデル体型の美しい女性に視線が行く。大学生の彼。学科は違うが美術系の学科で有名になっている美人女子大学生。全く興味がなく話しかけたことすらないが、背後の男性から発せられる妙な気配は“とても嫌なもの”で――犯罪者としての勘が働く。  わざと間を抜けようと足を止め、男を先に行かせる。睨まれる鋭い視線で見つめられ、彼はそれが『警戒』しているモノだとすぐに分かった。多分、尾行している邪魔をして怒っていたのだろう。 「睨まれても困る」  ストーカーが居ることを知りながら知らぬふり。助けたとしても警察に話し掛けられることが何よりも嫌だった。  二人の姿が見えなくなったとき、彼はクルッと背を向ける。ヘッドフォンを耳に当て爆音で『kill you』と殺意満ちた曲を流す。
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