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平和に潜む闇
ガタンゴトンと揺れる電車。人間臭漂う狭く苦しい密室。気持ち悪さに襲われながらもドアに凭れ、スマホを弄りながらうっすら映る夕焼けに目を凝らす。ブーッと音を発て振動するスマホにはメールが数件。
『写真映えてないんだけどセンスないんじゃないですかw』
『草生える。やめちまえ!!』
『映えるの意味分かってない。頭悪いw』
とあるアプリの通知のコメントが画面に出てきては『胸くそ悪い』と即座に削除。ドアに頭部をぶつけ、広告だらけの天井を見つめ言う。ドスが利いた声で小さく。
「映えね……」
少し寝癖のあるマッシュショートの黒髪。黒のガーコパンツにパーカー、ブーツ。見た目陰キャラ印象の強い青年。身長は高くも低くもない百七十センチぐらいでガタイは細くもなく太くもない標準。
改札口にスマホを翳し、風船ガムを膨らませ、首にぶら下げていたヘッドフォンを耳に当てては公共の音を消すようにアップテンポでシャウトやデスボイス調の曲に耳を傾ける。
少し細目でつり目の黒い瞳。眠そうで機嫌悪そうな顔つきが周囲の人を近付けない。そんな近寄りがたいが本当は――。
「ねぇねぇ、お母さん。あの人怖い」
「こら、指差しちゃダメよ」
「だってぇー」
子供の視線を感じ、チラッと一瞬で目を向ける。親子と目があった瞬間、顔には似合わない可愛らしい顔でニコッと一瞬だけ笑った。
親子が釣られるように笑うがひきつっており、彼がケロッと無表情になると怖くなったのか走って逃げる。彼は軽く首を傾げ『なんだ?』と不思議そうな顔。曲に合わせるようコツコツとリズムを刻みながらブーツ底を引き摺り、何もなかったように外へと向かった。
帰宅帰りのサラリーマンや学生とぶつからないよう避け、震えるスマホに目を向け『映えスタ』と映える写真を投稿するアプリを起動させる。下を向きながら振動や気配でスルリと人を避ける。音楽を流しているはずなのに分かっているかのような動きは勘がいいとしか言えない。
チェスやミリタリーと男目線の物を撮っては投稿する日々。だがそれは“中傷対象”にされ、正直死ぬほど辞めたかった。
『センスがない』
『映えてない』
『やめちゃえ!!』
と嫌なことを平気で書かれるが彼からにしたら『映える写真』が胸くそ悪く『映えない』写真が心を打たれるほど好き。そのため、そのアプリはサブ。わざと人に混ざるように身を潜めているのだ。
彼は――人を殺してSNS映えの写真を撮る『キルグラマー』と呼ばれる。裏では人気の殺人鬼なのだ。
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