あなたに逢えて、本当によかった。

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 話してみると、みんな気さくで明るくて、最初はおどおどしていた私もいつしか溶け込むように明るくなった。クラスにやっと馴染めたという感じがした。中学までのクラスの雰囲気に似ているな、と思う。なんだかまだそんなに経っていないのに、久しぶりの感覚で私は浮かれていた。  ある時、紀美子に好きな人できた?と聞かれて、私はふと気になる人がいることを話した。気になる程度で、まだ好きという感覚ではなかったからそれもちゃんと話した。 「えー、だれだれ。奥村くんでしょ」  唐突に言われて、そうだよな、と思った。私はいつも純平くんと一緒にいることが多いから、そう思われても仕方がない。 「ちがうよ。純平くんは私のヒーローなの」  そう、ヒーローなのだ。教室に溶け込めなかった私を、助けてくれたヒーロー。 「ヒーローなのに好きじゃないの?」 「ヒーローはヒーローだよ。王子様なんかじゃないの。それに、私には手が届かないような人だよ。みんな純平くんが好きだもん」 「たしかにモテるよね、奥村くん」  紀美子は純平くんと仲が良いわけではないのでずっと彼を苗字で呼んでいる。仲間内ではみんな名前で呼んでいるから、奥村くんという響きは不思議な感じがいつもする。 「で、じゃあ誰よ、気になる人って」  話が戻ったことに、私はすこし戸惑った。自分で言ってしまったのだから、誰と聞かれるのは当然なのだけど、その人を明かすのは意外と緊張するのだなと奇妙な気持ちになった。 「その…高山くんなんだけど」 「高山くんなの?なんでなんで」  そう聞かれるのもまた当然だった。私は高山くんと話したことが一度もない。  彼は、顔が白く背が高く、ハンサムとは言い難いけれど平凡で、でもどこか優しげな顔をしている。いつも静かに自分の席で本を読んだり、たまにクラスの男の子たちと話しているけれど口数は少ない。 「分かんない。なんか、みんなと話しててもいつも控えめで、なんかそういうのが良いなと思って」  どこに惹かれたのか、正直自分でもよく分からなかった。ただ、私はクラスに馴染めなかった頃、友達はいたけれどどこか孤独で、居心地の悪さを感じていた。なのに彼は一人でいることなんてなんでもなさそうに本を読む。そういうところが、私にはできなかったから羨望に近い気持ちもあったのかもしれない。
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