あなたに逢えて、本当によかった。

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 就職組はほとんどいなかった。この高校に入学する前のオリエンテーションで、進学率は九十パーセントを越えると聞いていただけに驚きはしなかったけれど、私は就職を選んだ。早く大人になりたかったから。早く、一人で立って歩けるのだと思いたかったから。  この頃になると、裕二は今まで仲良くしてきた男子たちもいるので前ほどではなかったけれど、時々一緒にお昼を食べたり、休日にカラオケに行くのも再開した。もちろんみんな進学組だったので、そもそも遊ぶ回数自体は減っていたのだけれど。 「佐伯は就職なんだって?どこに行くの」  そう聞いてきたのは純平くんだった。 「愛知だよ。名古屋の喫茶店に直接電話して就職決めたの」  それを聞くと驚いたように純平くんは眉を上げた。 「すごい行動力だね。俺にはそんなことできないよ」  たしかに、そんな人は全校でもいないだろうなと思った。就職理由の欄には”縁故”と言う文字が付いていた。私は喫茶店で働くのがずっと夢だった。とはいえ、二年の半ばからは、本当は校則で禁止されているれど喫茶店でバイトはしていた。 「どうしても喫茶店で働きたかったから、一個上の先輩で仲良い人が名古屋にいるから、喫茶店と言えば名古屋だって聞いてその辺に良い喫茶店ないか聞いて直接電話することにしたの。だって、喫茶店なんて求人に出てないだろうし」 「たしかに。でもほんと凄いじゃん。俺も、名古屋の専門行くんだよ。そしたら名古屋でも会えるね」  嬉しそうに彼はそう言った。 「そうだね。また一緒だ」  私もそう返した。  もうみんな受験が終わって結果待ちの頃だった。純平くんはもう結果が出ていた。その時期になると、三年生はほとんど学校に行かなくてよくなる。だから、この時期みんな自動車学校に通う人が多い。私も彼も同じ教習所に通っていた。そして、高山くんも。  実は、せっかく文化祭で写真まで撮ったのに、文化祭以外で高山くんと話したことはなかった。もっと気軽に話せると思ったのに、やっぱりあれは文化祭マジックだったのだ。そして、今もまだ高山くんのことが好きなままの私がいる。どうせ叶わぬ恋だから、このまま言わないでいようと思っていた。高山くんの進路も知らない。裕二と話す機会が少ないので探りを入れることもできなかった。
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