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卒業式を目前に控えて、私は無事に免許を取得した。私より少し先に高山くんは教習所を卒業して、純平くんは私の少し後だった。裕二と紀美子はちがう自動車学校に行っていたので、教習所で話す相手は自然と純平くんとが多かった。教習所の先生とも気付けば随分と仲良くなった。教習所は、学校がないときの学生のたまり場みたいになっていた。教習所を卒業してからも、バイトのない日はちょくちょく遊びに行ったものだった。私のヒーローは、気付けば親友と呼べるほどに親しくなっていた。
卒業式は盛大に行われた。大好きだったクラスメイトとの別れに、私は驚くほど泣いた。たぶん誰よりも泣いたんじゃないかと思う。卒業式の後、教室に戻って先生がみんなに贈る言葉に、教室中から鼻をすする音が聞こえた。高山くんの方を見ると、意外なことに彼も涙を流していた。彼だけは泣かないんじゃないかと思っていた。そんな雰囲気の人だった。
すべてが終わり教室を出ようとしたとき、私は急に呼び止められた。振り向くと、それはヒーローだった。
「あのさ、ちょっといい」
そう言って、私を誰もいない空き教室に連れて行った。卒業式のこの展開。まさか、と思った。空き教室は見事に静かで、そのせいで私は余計に緊張してしまう。前を歩いていた純平くんが振り返って、少しためらうように黙り込んだ。その時間はやけに長く感じた。そして、意を決したようにすっと顔を上げて、彼はそっと声を出した。
「たぶんびっくりすると思うんだけど…俺、佐伯が好きなんだ」
まさかが当たってしまった。私は本当に驚いていた。純平くんは私のヒーローで王子様じゃない、そう思っていたのに、私の心は揺れた。だから言葉に詰まった。なんて返したらいいのか自分でも分からなくなってしまった。長いのか短いのかも分からない沈黙が流れて、先に口火を切ったのは純平くんだった。
「戸惑うよね、ごめん。でも、名古屋には行くけど今までみたいには会えなくなるし、どうしても伝えておきたかったんだ」
その言葉に、私ははっとした。私も、心残りはしたくない、そう思った。
「ちょっと待ってて。ちゃんと返事するから」
「えっ」
彼が驚いてそう言ったときには私は駆け出していた。
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