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冷たい土の中で
あぁ、今日は冷たい雨が染みてくるわ。
地面の中まで焼けるような、あんなに暑い日が続いていたのに。
急に冬がやってきそうな冷たい雨。
どうか、冬が来て雪が降る前に、誰か私に気づいて掘り起こして頂戴。
雪が降ったら見つからなくなってしまう。
来年の春に、草の栄養になって朽ちる前に。
どうか、誰か私を、この冷たい雨が降っている間に掘り起こして。
地面に埋められた棺の中で、夏の白いワンピースを着た18歳の恵美は願っていた。
付き合っていた孝之のやきもちで、生きたまま棺に入れ埋められてしまった。
いちおう、一日に2回、水が外から送られる管からは、時々は栄養価の高そうな液体も流れてくる。
恵美の口に固定されたチューブに時々流されてくるので、それを何っとか飲み下し、恵美はかろうじて息をしていた。
流してくれているのはどこかの室内なのだろうか。
でも、恵美が埋まっているのは屋外らしい。
埋められたのは夏のさなか。木でできた棺は夏に降った強い雨の後、蓋がひしゃげ、草の根が入るようになってきた。
恵美は、棺の蓋の上の土があまり深くないのだと思った。
深く埋められていたら、きっともっと重いはずだから。
それに、夏の暑さも感じないはずだから。
夏の暑い日には土の中にまで暑さが入り込み、雨で落ちた棺の蓋もすぐにからからに乾いてしまった。
きっと、気がすんだらあの人も出してくれるはず。孝之は独占欲が強い。私がちょっと道を尋ねられて答えた相手が若い男だったと言うだけでこの始末だ。
恵美はこんなことで死にたくなかった。生きる希望を捨てなかった。
でも、このところ、日々の水分が送られなくなってきた。
それに加えて、急にこの冷たい雨だ。
恵美の体温は瞬く間に奪われて、今は命の危機に瀕していた。
このまま意識を失ったら、棺が比較的浅くても、雪に埋まってしまったら、きっと春まで掘り起こされることはないだろう。
恵美の美しい髪も、可憐な瞳も、ツンとした鼻も、花びらのような唇も。
みんな土と一緒になって、草の栄養にされてしまうだろう。
恵美は、色々と考えながらあまりの寒さに気を失ってしまった。
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