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第一章 あの子たちのすべて
土曜日、昼下がりのおしゃれなカフェ。ひとつの丸いテーブルを、気をつかいながらぐるりと囲む。
会社の同期の女子会なのだった。多くが今年で二十四歳なあたしたちの代は、仲のよい代と言われている。
仕事の話なんかするわけない。男性社員の悪口には花を咲かせるけれど、それは仕事の話とはまったく別物。
事務のふわふわしたひとはこう言う。
「恋愛って、いいよね、やっぱり。なんていうのかな、ひとを変えるよね。結婚? うん、するするー、今年じゅうが目標って感じ! 結婚式にはもちろんみんなも呼ぶから来てね! えー、子どもの数? そんなのまだわかんないけど、三人はほしいよねーって彼と話はしてるー!」
経理のさばさばしたひとはこう言う。
「私は恋愛はもうしばらくいいわー。めんどくさいし。お金かかるし。いまどき女性だってひとりだって生きていけるし、いまは友だちとかと遊んだり趣味をやったりしてるほうが楽しいのよね。だれかといるほど余裕がない」
総務の一歳だけ年上のひとはどこか怖い顔をしてこう言う。
「私は、恋愛にがっつこうとは思わない。先に自分を磨かないと。むしろ彼氏がいないときこそチャンスだと思う。須藤さんはどう、ちゃんと自分磨いてる?」
そして、総務の天王寺さんは、こう言うのだ。
「恋愛、ですか? ……うーん、したいと思ったこと、ないです。なんで、ですか? ……えーっと。説明ちょっと難しいのですが、わたしは人間のふりをしているだけなので、人間と恋愛はできないのです。異種族間交流になっちゃいます。不遜ですしね、不敬ですし」
みんな、苦笑を噛み殺して微笑む。
天王寺公子さんはそういうひとだ。
総務でもその仕事ぶりは評判で、だからたしかに仕事はできるんだろうけれど、なにかどこかがずれていて。でも笑顔がかわいいせいかなんなのか、とんちんかんなことを言っても、公子さんは変わってるね、ってだけで済まされる。
天然、ってことなのかな。
あたしはさりげなく視線を落とした。食べ終えたケーキの残骸はいつ片づければいいのか、お茶のときっていつも、タイミングがわからない。
……あほらし。
仕事ができるのに、天然なふりをしているのだ。そうに違いない。仕事ができてつんけんしてるとモテないし、天王寺さんは頭がいいからそこらへんをきっとわかっているのだ。……じっさい男性社員のウケも、天王寺さんはばつぐんにいい。笑うときにもけっして声はたてずにっこりと上品に微笑むだけで。
天王寺公子は、嫌な女だ。
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