推し。

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 無論、大っぴらに推すことはない。  依怙贔屓など役員にあるまじき行為だ。  あくまでも密かに推すのである!  しかし。  フウちゃんは只者じゃなかった。悪い意味で。  とにかくすぐ泣いてしまう。  一、二回は「まだ小さいからね」で済んでいたが、フウちゃんはどうやら人から間違いを指摘されるのがお嫌いのようだ。  ダンス指導をしてくれる大学生のお姉さんがちょっと指摘しようものなら、たちまち機嫌を損ねて泣く。  ……進まんのよ。練習が。  他の子たちも初めは心配していたが、次第に白けた空気が漂い始めた。  その見た目から、チヤホヤされてきたであろうことは明白。  だからなのか、振りを修正するためのちょっとした指摘を、自分が全否定されたと捉えてしまうようなのだ。  幼い頃はありがちなことかもしれない。成長過程なのかもしれない。でも。  フウちゃんは、自分が指摘されると不機嫌になるのに他の子の間違いには厳しかったりする。  しばらくすると、フウちゃんが泣いても誰も構わなくなった。  隅で休ませ、他の子はどんどん練習を進めていく。  その間、彼女は涙目でひたすら指をしゃぶっているのだった。  優しそうな若いパパがお迎えに来るのだが、私は毎回その背中に念じる。  「アンタ、気をつけなはれや!」  このまま大きくなったら、フウちゃんは嫌われる女の代表格だ。女社会でやっていけまへんで! いや、意外とこういう女が世にはばかったりするのか?  私は、練習三回目でフウちゃん推しから降りた。  私が求めているのはこういうんじゃない。  推しがいなくなった。  由々しき事態である。
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