推し。

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 でも、大丈夫!  新たな推しはすぐに見つかった。  練習初回、一人ずつ名札をつけた状態で写真を撮った。  大学生のお姉さんに、なるべく早く顔と名前を憶えてもらうためだ。  後で気づいたことだが、この個人写真すべてに見切れている子がいた。  何これ、面白すぎるだけど。  レイちゃん(仮名)。  細っこくて小さいけど三年生だ。毎回、赤いTシャツを着て来る。  その赤いTシャツは、練習の回を追うごとに色褪せていく。  ある日、レイちゃんは「細かい手の動きがわからない」とお姉さんに訴えた。  レイちゃんは、ちょっとだけ視力が悪い。  鏡に映る自分がどこにいるかすぐわかるように目立つ色の服を着ているが、細かい手の動きまでは見えないということのようだ。  え、そのためにいつも赤い服着てたん? 色褪せてるのに?  「写真見切れ」に加え、これが妙に私のツボに入った。  推せる。  私が求めていたのはこれだ。  以来、私は密かにレイちゃんを推している。あくまでも密かに。  秋祭りが近くなった頃、お姉さんが言った。  「みんなとっても上手! あとは笑顔がほしいな~!」  ということで、はにかみつつも笑顔で踊る低学年たち。  しかし、レイちゃんは一味違った。  懸命に口角を上げ、歯を見せている。お姉さんに言われたことを必死で実践しようとしている。  しかし、それはいわゆる引きつり笑顔だ。  推せる。  二グループに分かれて踊り、感想を言い合う練習では、フウちゃんに  「笑顔過ぎてコワい」  と言われてしまった。  推せる。  一生懸命なんだけど不器用。そして独特の面白さがあって実に良い。
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