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忍ばない!甲賀忍者、咲耶様華麗に見参!
「やァやァ、道場破りだ。忍ばない甲賀忍者、咲耶様、華麗に見参!」
まるでダンスでも舞うようにボクの前でポーズを決めた。アイドルみたいに艶やかだ。ミニスカートがヒラリと翻って健康そうな太ももが覗いて見えた。
「えェ……?」
ある朝、なんの前ぶれもなくボクの屋敷に咲耶と名乗る美少女忍者が道場破りに現われた。
しかしあらかじめ断っておくが、ボクの屋敷は道場でもなんでもない。ただの民家だ。
古い上に、無駄にだだっ広いので近所では『伊賀の幽霊屋敷』と陰口を叩かれていた。
「お主が伊賀の影丸だな。たとえ神が許してもこの忍ばない甲賀忍者、咲耶様が許しはしない。いざ尋常に勝負しろ!」
美少女忍者、咲耶は背中に背負った刀の柄を握った。
しかし左手では自撮り棒でライブ配信をしたままだ。
どこかコミカルな恰好で微笑ましい。だが無邪気に笑っている場合ではない。このまま黙って手を拱いているワケにはいかないだろう。
「ちょッ、ちょっと待ってください」
ツッコミどころが満載で、どこから手をつけたら良いのかわからない。
「なにィ、待てだとォ!」
咲耶は憮然とした顔でボクを睨んだ。なぜか、自撮り棒はしっかり握ったままだ。
「あのですね。勘違いしているようですが、ボクは伊賀の影丸ではありませんよ。危ないですからその背中の刀から手を離してください!」
必死にボクは両手を振って戦闘放棄をアピールした。
冗談ではない。朝っぱらから玄関先で刃物を振り回して、チャンバラなんて常軌を逸している。
ボクの名前は、伊賀野藤丸と言う。
まるで伊賀忍者の末裔のような名前だが、まったく忍者とは関係がない。
そう両親から聞いていた。
現在は、メガロポリス東京田無市にある私立魔界野小学校六年Z組の副担任をしている。
この春、赴任したばかりの新米教師だ。
そのボクに予期せぬ災難が降り注いだ。
事件は、ついさっきボクの屋敷の玄関先で始まった。
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