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ごはんが好き、ね。
風にそよそよ吹かれながら、みつる、と呼びかけてみた。
「ん?」
顔をこっちに向けた。赤みがかって、引き結んだ唇。充が誘っている、と俺は都合よく解釈する。俺の唇を重ねてみれば、じんわりと柔らかい。
「………っ!」
充はいつかみたいに真っ赤になって、手で口を押さえる。もう何度もしているのに、いちいち、初々しい。
「勝手にするなって、言っただろ! しかも、公衆の面前で!」
「だって充がかわいいから」
「少しもかわいくなんかないっ! よく見ろ!」
ワックスとアイロンで流しているふうに固めた髪。スタイリングしない方が俺は好みなんだけど、充はかっこつけたいらしい。よく動いて喜怒哀楽をまんま映す瞳。
「…かわいい」
怒ってもこわくないもんね。
充の鼻の頭についたクリームを指で拭ってやる。
「…ばか」
「うちくる?」
「えっ?」
「ごはんいっしょに作って、じーちゃんと三人で食べよ」
進級して、充と同じクラスになってから、俺が好きなのは充だってことが三年のあいだでは急速に広まった。それを知った充はなぜか激おこ。なんでだよ、とか、俺たちだけの秘密にしておけばいいだろ、とか。
きわめつけが、「俺が倫也を好きで、倫也が俺を好きなら、他のやつが知らなくたってそれだけで充分だろ」だってさ。
思い出すと、口元がにやける。
チャリでにけつして、慣れた道をゆっくりとふたりで走っていく。
終わり
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