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卵焼き
味噌汁の 湯気のむこうに イケメンか
朝。思わず七五調になっちまう。
ほうれん草と油揚げの味噌汁。つやつやのご飯。めざし。
「おはよ」
「…おはよう」
結論から言えば。家事能力は倫也の方がはるかに高かった。
俺は朝が弱い。毎日母親に叩き起こされてた。そんなやつが、親がいなくなかったからといって早くに起きて家事をひととおり済ませて学校に通うなんて、到底無理なのだった。
洗濯物を干すために、ベランダに面した俺の部屋を通る倫也に起こされるのが、おそろしいことに日課になりつつある。
目をこすりながらダイニングに降りて行けばかつおだしの匂いと、包丁のリズミカルな音。制服のワイシャツの上にエプロンを着けている。それ自分の家から持って来たのか?
「…自分ちでも、やってたの?」
箸で卵焼きをつまむ。今日は青ねぎ入りで色合いもきれいだ。柔らかくしっとりとして、味も申し分ない。だしの効いた卵焼きを作るのが上手いイケメン高校生なんて反則だ。
「まあ、少しは」
校内の暗黙のルールで、ブレザーの下に着るものは色が決められている。ベージュのニットやカーディガンは一軍のやつらしか着ちゃいけないんだ。間違って着たら白い目で見られたり、うるさ型の女子にシメられたりする。二軍以下は紺か黒。どこにも属さない変わり者はピンクのジャージとか。
俺? 俺はもちろん学校指定の紺色さ。
倫也はエプロンをたたんで椅子の背もたれにかけると、胸にちっさくブランドロゴの刺繍が入った、もちろんベージュのニットセーターを頭からかぶって着る。わざとなのか無頓着なのか、たぶんワンサイズ上でだぼっとしてる。肩が少しずれて、袖から指先しか出てなかったりして、それが妙に、抜け感っての? 倫也のけだるい雰囲気にしっくりなじんでる。
びっくりしたのが、こっそり観察してわかったんだけど、こいつ頭、手櫛でかるーく整えるだけなのな。毎朝、洗面台の鏡の前を親に文句言われながら占領して、ワックスやらヘアアイロンやら、やってる俺がばかばかしくなるわ。
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