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風呂上がり。タオルを頭にかぶったまま、リビングを横切ろうとした。
「充。こっちおいで」
「………は?」
なんじゃその物言いは。
俺が固まっているともう一度、こっち、と言った。いや、聞こえなかったわけじゃない。
やけにまっすぐこっちを見てくるから、しかたなく倫也の傍らに座る。倫也は用意していたらしいアイスの包装をおもむろに剥いた。丸っこい文字でいちごみるくって書いてある。棒の部分をつまんで持った。どピンク色のさきっぽは俺を向いてる。
「ま………」
ずぼっ。
まぬけに開いた口の中に、つめたくてあまいかたまりが押し入る。
「っ………」
冬のこたつでアイス。うまいけども…。
食いたきゃ自分で食うわ。
「倫也も早く風呂入れよ…」
アイスの溶けそうな部分を舌ですくうと、倫也は微笑んだ。なんつーか尻のあたりがむずがゆくなる。
さらに、だ。
つと手が伸びてきて、タオルでわしわしと頭を拭いてきやがった。
「お…俺は犬じゃねぇ!」
「充、ほっぺ赤いよ。こどもみたいに」
「お前なあっ」
腕を押しやってこいつのテリトリーから逃れる。
「…俺もう部屋行くから!」
わかったぞ。きっとあいつはああやって、エプロン姿で手料理をふるまったり、かいがいしくお世話をすることで女の子をロウラクしてるに違いない。
今まではもてる男が女の子に対して具体的になにをやってるかわかんなかった。いきなりキスするわけじゃないだろうし。すかした言葉ばかり吐いてたらただの変なやつだし。
どうしたらもてるのか。フツメンの俺には大いなる謎だった。
でもわかった。ギャップ萌えってのか? きっとそれだ。
「やっぱいけすかねえ…」
月ヶ瀬倫也め。
ベッドの上であぐらをかいて、アイスを乱暴にかじり取ってやる。甘い。
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