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よるのおおかみ・その2
充、思い出して。
つっても、俺自身もおぼえてないんだけど。
両親を車の事故でなくした直後。じーちゃんもばーちゃんも親戚たちも葬式の準備やいろんな手続きで忙しくしていたらしく、どうしても面倒をみる手がないとき、俺はときどき充の家に預けられていた。
二歳の頃の記憶なんてもちろんないから、それはずいぶんと後になってから聞いた話にすぎない。
夜遅くに迎えに行ったら、あちらの充くんと体を寄せ合って眠っていたよ。
とか、
トモは大人たちの陰に隠れて不安そうな顔してたけど、充くんと遊んでるときだけは笑顔でな。
ってのは、じーちゃんと同級生やご近所の話をしていると必ず出てくる鉄板ネタだった。
そう、本当に何十回、いや、何百回となく聞かされてきた。
充とは小中学校が同じだったけれど周囲の友達が違ったから、積極的に絡むことはなかった。充はこれといって特徴のないやつらといっしょにいて、でも、いつも楽しそうにしてた。
高校はさすがに離れちゃうかと思っていたら、たまたま人づてに充の志望校を耳に入れた。それで、あんまり得意じゃなかった勉強を頑張った。テキトーに志望していた私立よりも公立に行った方が金もかからなくて、じーちゃんも困らないと思ったし。
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