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「離せよ!」
校門の前まで連行される。学校一のイケメンと、ぎゃーぎゃー騒ぐ俺。経験したことのないくらい注目されながら廊下を、昇降口を通ってった。
「かばん! 持って来てねえし!」
「かばん…?」
倫也は足を止めて振り向く。
「母親同士は仲良かったらしいけど、俺たち、しゃべったこともないだろ?」
少なくとも十数年は、一言だって話していないはずだ。で、その話したってのも保育園に入るより以前かもしれないくらいの、昔。おそらく赤ちゃん言葉で。そんなのほぼ他人だろ。
「だってじーちゃんに言われたし」
「…おじいさん?」
口を利いたことはなくても、知っていることはいくつかあった。
倫也の両親は、二歳だったか三歳だったか、とにかくかなり小さい頃に車の事故で亡くなっている。
それから母方の祖父母に育てられていたが、数年前におばあさんが亡くなり、最近になっておじいさんが体調を崩し、今も入院している。
それで、倫也は俺の家の近所、おじいさんが不在の一軒家でひとりで暮らしをしているそうだ。
近くに住むおじいさんの息子、亡くなった母親のお兄さんとその奥さんが、病院に通いながら甥である倫也のこともときどき見に来て、食事をいっしょに取ったりして気にかけているらしい。
正直そのへんの事情は、大変だろうなとは思うものの想像もつかない、と言った方が近い。親元でのほほんと暮らしている俺なんかが、なにか言うのははばかられた。
「…だからって、月ヶ瀬だって俺なんかといるの、やだろ」
「べつに。充のことよく知らないし」
「それは…そうかもしれないけど」
でも俺は月ヶ瀬倫也のことをいろいろ知っている。
女の子たちをはべらせ、放任主義のおじいさんをいいことにあまりよろしくない類いのお友達とつるんで夜遊びしている。他校の子をニンシンさせておじいさんにお金を払わせた、などなど。聞く気がなくても学校にいれば耳に入って来る、ほとんど生徒全員の共有情報。
「だいたいなんだよ、『充』って」
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