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「だって、充は充じゃん」
なに考えてるかわかんない無表情が、和らいだ。目を細めて、唇の端を少しだけ上げて俺を見る。
どきっとした。
笑った? 少しだけ、だけど。
なっ…なんでだよ。俺はそっぽを向いてしまう。
ようやく、倫也は俺のワイシャツの襟を離した。
「理由んなってねえよ…」
なんで、俺が男相手に胸を高鳴らせなきゃならないんだよ。
「お…俺、チャリだから」
目をそらしたまま続ける。
「確かに月ヶ瀬の家から食費や光熱費やら、もらってるらしいから…めしだけでも食いに、来たけりゃ来ればいいよ」
ぼそぼそと早口でしゃべった。そうだ、きっとこいつは食事の心配をするあまり、俺といっしょに暮らすだなんて口走ったに違いない。
倫也は答えなかった。腕時計を見て、今の時間だとあと二十分来ない、とのんきな声で言う。
「なにが?」
「バス」
「…そうかよ」
待てば、いいんじゃね?
「にけつして帰ろ」
「!?」
「…後ろ向いて乗りゃいいだろ…」
よろしくないことだけど友達を乗せるときは、みんな運転する俺と背中合わせで荷台にまたがってるよ。
なのにこいつは。俺の腹に腕を回してきた。おいおい、彼女と乗ってるんじゃないんだぜ?
「おまわりさん来たらすぐ止めるから、月ヶ瀬、見張ってろよ」
「かばんは?」
「あー…いいや」
家で勉強するわけでもなし。スマホと財布は普段から尻のポケットだ。
いいニオイすんなーと思った。これだからイケメンは。
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