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指先で料理に塩をふっているときみたいなツラをしていやがる。真剣で、俺のちょっとした表情の変化も見逃すまいとするような。
塩少々ってのは、指三本でつまんだ量のことなんだよって教えてもらったなあ、なんて考えてそのときはまだ余裕だった。
でも。
「いっ…! てえ!」
指とは全然違ってた。オリーブオイルを入念に垂らしてからでもやっぱり、押しあてられた時点でどうしても緊張が走ってしまう。
実際痛いかどうかが問題なんじゃなく、こえーよ! 腰がひけるし体がこわばる。
「男とするのははじめてだから…ごめん、充」
同性同士で付き合う人もいるってのは、知識としては知っていた。いまどき学校でも教わることだ。でも、どう「する」かなんて考えたことはなかった。俺たちは今からそれをしようとしている。
不安になって倫也を見上げた。
「やめようか、やっぱり」
俺の不安が伝染ったみたいだった。
「…やだ」
「え?」
「なんでそんなこと言うんだよ? 最後までする!」
でかい声が出た。
「でも、痛がらせてまでしたくない」
「お前がやるって言ったんだろ! 俺のものにするとか何とか」
「充…どうしてそんなに一生懸命なの?」
倫也は俺の額を撫でる。だだっ子を落ち着かせようとするみたいに。
「だって倫也が…俺だって、倫也のこと」
情けなくなる。お前はそこまでじゃなかったってことかよ。鼻の奥がつんとして、なにかがこみ上げてきそうになる。
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