世界一のフツメン

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世界一のフツメン

四月。俺は三年生になる。今日から新学期だ。 さほど進学率が高くないうちの高校は、専門学校や就職希望の生徒もふくめて、ざっくりと文系と理系に分かれるだけだ。俺は一応大学に進むつもりで、文系を選んだ。 倫也がいたらどっちを選んだのだろう。資格を取りたいって言ってたな。 あの最後の夜。 翌朝、目覚めたらもう倫也の姿はなかった。荷物もきれいになくなっていた。ありがとまたね、って短い、短過ぎるメッセージがスマホに送られてきた。 それだけ。 それきり連絡はなく、終業式までの数日間は学校にも来ていないようだった。自転車で行った倫也の家はひとけがなかった。病院の方は、院内で感染症が流行っているとかで、近しい家族以外は病室に入れないと張り紙が掲示してあった。なにもできなかった。 俺の両親はカナダから帰国し、いつもの日常に戻った。 親は、キッチンやベッドが清潔に保たれているのを見て、よくやっていたのねと言った。俺ひとりだったら、流し台の掃除や定期的にシーツを洗うことなんか思いつきもしなかったよ。 倫也が来る前の生活。倫也が現れる前の人生。倫也のいなくなったキッチン。何事もなかったかのように。 おじいさんのことや、引っ越しの準備やら手続きで、忙しくて連絡するひまもなかったのかもしれない。 せめて、おじいさんが元気になって退院していてくれればいい。そう思おうとする。 それでもふいに胸が苦しくなって、俺は道の脇で自転車を停める。 空に、預かったネックレスの石を透かしてみる。もらったんじゃなくて預かった、俺はそうとらえている。透明な緑が、春の少しかすんだ青と重なって色を変える。 今、どこにいるんだ? なにをしてるんだよ。なにを思ってる? 俺は。
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