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「ば………っ、ばかっ!」
イスを蹴立てると扉に向かってクラスメイトの合間をぬって走る。
「充!」
「倫也のばかっ!」
でも行くところがなかった。廊下の端であっさりと腕をとらえられる。
「学校も…来てなかったじゃん」
「親戚の人と話し合ったり、じーちゃんの退院手続きがあったから。始業式まで黙ってたのは…びっくりさせたくて」
倫也は俺の目を、少し屈んでのぞき込む。
「サプライズのレベルじゃねーだろが…」
「怒った?」
「怒ったよ!」
いろいろな感情があふれて、せめぎあって、ぐちゃぐちゃだ。
「ごめん」
「でも…よかった。おじいさん、元気になったんだな」
「倒れたのはびっくりしたけど、結果的にはあのとき手術してよかったみたい。もし手術してなかったら、悪いところが見つからないままどんどん悪くなってたってお医者さんが言ってた」
「そっか…」
互いに言葉が途切れる。言いたいことが、たくさんあったはずなのに。
「…後悔、してる…?」
やがて智也はぽろりとこぼした。
「あのときは俺も、本当にもう会えないって思ってた。充をだましてからかったり、『したい』からって嘘をついたわけじゃない。それだけは、わかってほしい」
うつむいて髪をかき上げた。いつかみたいに。後悔してる? もう一度聞いた。
「俺はすごく…充に会いたかった」
不器用に言葉を紡ごうとする倫也。めちゃめちゃに、胸をかきむしられる。
だから乱暴に抱きしめた。
「ばかやろ…」
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