世界一のフツメン

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始業式なんかさぼろうよ、と言う倫也をひきずって席に着いた。まだ朝なのに、すげえ疲れたぞ。 「そうだ。そういうことならこれ、返すよ」 担任が三年生の心がけを説いているとき、こっそり話しかけた。前を向いたまま椅子を傾けて、背中を後ろの机につける。 別れのいきおいで渡してきたのだろう。 首から下げるのはあまりにもおこがましいと思ったから、小さな巾着袋に入れてお守り代わりにしていた。倫也のお母さんの形見のネックレス。 「持ってて」 「そういうわけにはいかない。それに、次会うときまでって約束だったろ」 「だって、そう言わないと充は受け取ってくれなかっただろ…充が、持ってて」 頑なだ。倫也はそれをてのひらに取り出すと、俺の首にかけた。ホームルーム中だっつの。 「…わかったよ」 指先で石の感触を確かめたら、倫也の手とふれあった。 「新しいマンションはどう? おじいさん大丈夫?」 「ん、古かった前の家より楽そう。すっかり元気になって、仕事はまだ行ってないけど、近くに大きな公園も商店街もあるから、毎日散歩行ってる」 「…そっか、良かった」 「じーちゃん、充に会いたがってたから今度来て」 「行くよ」 進路希望調査やら、持ち帰って親に書いてもらう書類。前の席のクラスメイトから受け取り、倫也に回す。 「じゃ、ネックレスの代わりになんかやるよ」 「充が俺にくれるの?」 「小遣いの範囲内で、だけど」 こんな大事なものの代わりはないだろうけど、もらってばかりでは性に合わない。 「…いっしょに買いに行って、いっしょに選びたい」 「ああ。そうしよう」 「充とクレープ食ったりゲーセン行ったりしたい」 「お、おう…」 クレープが好きなのか? 意外だ。 プリントに名前を書き入れながら考える。 いや、それってつまり俗に言う、デートってやつか!? 思った拍子にシャーペンの芯が派手に折れて飛んだ。 「充? 耳、まっか」 指が耳たぶに触れる。 「なっ…なんでもない! 気安くさわんな!」 また、倫也といっしょにいられる。
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