大切な思い出

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『ゴロゴロ…』  目の前で寝ている黒猫に目が行った。頭の中で浮かんでいるイメージが鮮明に見えていた。夢のように、自分の体を思いっきり動かして。急なモヤと共に意識が現実に戻ってくる。締め切ったカーテンの間からは青白い光が差し込んでいた。 「…朝か…」  ずっとパソコンのキーボードを叩き続けていたらしい。肩のコリは限界を迎えている。だけど、思いついて、プロットまでは出来上がっていたのにも関わらず、書く気持ちになれなかったこの物語を、今書ききらなければと、ひと握りの気力で作り上げていた。  思いっきり腕を天に向けて伸ばす。背中の骨が音を鳴らした。落ち着いていいんだと、肺は思いっきり空気を吸い込む。 「終わったあ! 何年越し?1年?やっと終わったよ!」  ずっとパソコンの前で寝転んでいる黒猫を優しく撫でた。やっと終わったのかという目線を送ってくる。君は今までほとんど寝てたじゃないか。そう思いながらも、近くに居てくれる君のおかげで何とかここまでたどり着いた。  やっと踏ん切りが着いた。心の中で溜まって渦を巻いた哀しみが、やっと。  君をここにずっと縛り付けてしまっていた俺の気持ちが、片付いた瞬間だった。 「君の物語だよ。ねぇ、ネットに上げてもいい?」  君は小さく欠伸をして、立ち上がった途端に背中を伸ばす。 「いいってこと?」 『にゃー!』  大きな声で鳴いている。やっと終わったか。やっと、前を向けたんだな。そう君は言っているようだった。  ふと、見つめる。  君のしっぽは、二股だった。
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