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「そうですか……」
ノコッタは予想外の薄い反応だった。
騒動の顛末よりも、巫女の所在のみを気にしているようにも思えた。しかしながら、彼の様子からは、巫女に対する思いやりや憐憫は感じられない。
言うなればそれは、状況を盤面遊戯と駒のようにして例え、さらに、その先に待ち受けるいくつもの危機を見据えているみたいだった。その冷たい印象は、先ほどまでの子どもを相手にしていた時とは大きな違いである。
それは、政治的な駆け引きをする者の反応に似ているなと、ヘンゲルは直感した。
「かの巫女はいま、【惑星の目覚め】の手に落ちたのですね?」
「その可能性は十分にあり得るかと……。でしたら、犯行声明や、教団に対して何らかの要求はあったのでしょうか?」
ノコッタは首を横に振った。
「まだ、なにも……。しかし、事態は思ったよりも深刻なようですね。すぐに騎士たちを召集しなければ。まったく、国の秩序を乱す破滅主義者たちの考えることは、まるでわからない」
なんと白々しい反応なのだろうかと、ヘンゲルは思った。
ノコッタは、口では悲観的に言いつつも、実際のところは、リリィが誘拐された理由に心当たりがあるはずだ。だが、あえてそれを表面に出さないようにしているのが、ヘンゲルには回りくどく感じた。
ヘンゲルはわざとらしい間を置き、いかにも言いずらそうな空気を演出してから、ぼそりとつぶやいた。
「【不死者ノ王】の力……」
おもむろに振り返ったノコッタは、眉根を寄せ、気難しい顔をしていた。
「ヘンゲル、どこでその言葉を?」
「確かにそう、ユリアが明かしたのです。リリィ様の血に秘められた異能だと……」
ノコッタの顔がみるみるうちに青ざめていく。
「ですが、彼女自身、どこでそのような情報を掴んだのか、私には想像も及びません」
ヘンゲルはつらつらと無知のふりを演じた。あくまで自分は騒動に巻き込まれた側の人間であり、巻き起こした張本人だと悟られてはならない。
「しかし【不死者ノ王】? 旧時代に滅んだ破滅の象徴がなぜ現代に? きっとユリアは、我々を混乱させるために、世迷い言を言っただけに過ぎません!」
「……。」
しかし、ノコッタは否定しなかった。長い沈黙の末に、彼はとうとう白状した。
「事実です……」
ヘンゲルは内心ほくそ笑んだ。
「と、仰いますと?」
「リリィは、現代人ではありません。旧文明の生き残りなのです」
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