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幼い少女は小さな骸を拾い上げた。野生で見ることはない鮮やかな色の羽を持つ小鳥だ。
「まあ、可哀想に……」
小さな手のなかに収まるその小鳥は、汚れや怪我が目立ち、羽も抜け落ちてボサボサになっていた。まともに食事も摂れていないのだろう、ひどく貧相な有り様だ。
「あなたは、結局かごの中でしか生きられないのね……」
高貴な出で立ちの少女は悲しげにつぶやくと、背後に立っていたもう一人の少女を振り返る。整った身なりをした彼女が動作をするたびに、亜麻色の豊かな髪が揺れる。そして、彼女はもう一人の少女に言って聞かせた。それは、死んだ小鳥にまつわる話だった。
高貴な少女は、かつてこの小鳥を飼育していた。だがある時、狭いかごの中で飼い慣らすことに罪悪感を覚えた彼女は、善意から小鳥を外の世界へと放った。ところが、それまで人の手によって生かされ続けてきた小鳥にとって、外の世界はかくも厳しく、残酷な場所であった。小鳥は餌を得る手段も、外敵から身を守る術も知らない。他の鳥の縄張りからも追い出された小鳥はとうとう力尽きたのだ。
そのとき少女は、“自由”の意味をはき違えていたことを思い知った。ごう慢なやさしさが招いた悲劇だった。彼女は自虐的に苦笑した。
「まったく、私はどれほど愚かなのかしら……。世間知らずもいいところ……あなたもそう思わない?」
もう一人の少女はなにも答えない。彼女は寡黙で、つねに凛とした態度を崩さない。声を上げて笑っているところなど、少女はまず見たことがなかった。
「せめて、お墓を作ってあげようよ」
凛とした少女が提案した。
「そうね……じゃあ、あなたはお花を摘んできてもらえる? 私は──」
少女は周囲を見回すと、丘の上に立つ木に目を向けた。
「あの木の下に、この子を埋めておくわ」
それから二人は、村を一望する木の根本に穴を掘り、小鳥を埋葬してあげた。
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