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「おお、戻りましたか、ヘンゲル」
「ノコッタ教王」
ヘンゲルがうやうやしく頭を下げたのを見て、教団の最高指導者は、そうかしこまらないでくれと彼にうながした。
「教王様、至急、お耳に入れたい情報がございます」
ヘンゲルが、あたかも剣呑な雰囲気をつくると、ノコッタの顔からも笑みが引いた。
「ゲーティ城の件ですね? 報せは届いています。難儀でしたね。ですが、その話をするには、ここは少々騒がしすぎます。ついてきなさい」
ノコッタは、会議に使う個室にヘンゲルを案内すると、従者を部屋の外に待機させ、二人きりの状況を作った。
「それで、ゲーティ城が【惑星の目覚め】に襲われたというのは本当ですか? かの城に住まう巫女は? 無事なのですか?」
「申し訳ありません。あと一歩のところで、巫女を奪われてしまい、こうしてむざむざと帰還した次第であります……」
ヘンゲルの報告は嘘で塗り固められていた。テロリストを城に招き入れたのは、彼自身に他ならない。しかし、現場の生存者は残らず始末し、真実を知っているのは、ヘンゲルと、命からがら逃げだした少女二人だけだった。
だから彼は、その報告をいかようにも歪めることが出来たのだ。
さらにヘンゲルは、ですがと、すかさず切り返した。
「此度の襲撃事件の主犯は、すでに把握しております。それも、我々が想像するよりも近しい人物です」
「教団内部に内通者がいた、ということですか?」
ノコッタは重々しく口を開いた。だが、西日の差し込む窓の外を眺める彼の顔が、どんな表情をしているのかまではわからない。
「残念ながら、そのとおりにございます」
「その者の名は?」
ヘンゲルは、己の野心を腹の奥底へと沈め、作り上げた偽りの事実を口にした。
「リリィ様の近衛騎士、ユリアです」
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