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「メアリー嬢、お手を」
一人目はトマス・シーモアだった。
金糸の混じった茶髪に薄茶の瞳の貴公子。
なぜか足をかばうそぶりをしていた。
「あなたは本当に美しい」
(エドワード・シーモアの弟……でも兄と違ってそれほど腹黒くはなさそうね)
シーモアの次兄と踊り終わると、次が控えていた。
王女のもとを去ったシーモアの次兄はメアリー・フィッツロイと踊っていた。
「メアリー嬢、お手を」
メアリー王女への申し込み二人目はジョージ・タルボットだった。
茶髪茶目、まだまだ子供子供していだが、将来は美形になりそうな顔をしていた。
「あなたは本当に美しい」
ジョージ・タルボットは王女と踊り終えたあと、次はメアリー・フィッツロイと踊っていた。
三人目はスペイン人だった。
「メアリー嬢、お手を」
クラウディオ・レクエゾスと名乗るその男性は、マッチョ好きな女性ならめろめろになりそうな身長の高さと癖のない長い黒髪の持ち主だった。
「あなたは本当に美しい」
踊りおえたクラウディオ・レクエゾスは次はメアリー・フィッツロイと踊っていた。
(この女、わたくしが目をつけた独身の殿方全員を奪っているわね……)
メアリー・フィッツロイ。
メアリー王女の異母弟でもあるリッチモンド公爵ヘンリー・フィッツロイの未亡人で、ノーフォーク公爵トマス・ハワードの令嬢。
味方につけようとしたサリー伯爵ヘンリー・ハワードの妹だ。
(感謝することね、フィッツロイ夫人。わたくしは心が広いの。今日のわたくしは誰よりも美しい。あなたごときが王女のお相手を奪うのは大目に見てやるわ)
四人目は黒髪黒目の少年だった。
「メアリー嬢、お手を」
この少年も、あとでメアリー・フィッツロイと踊るのだろうか。
(どこかでこの顔を見た気がするわ)
どこでだったかしら。こちらの少年は、どこの貴族のぼっちゃんだったかしら。
名乗りもせずに、ダンスに誘う少年のリードに身を任せた。
「あなたのレジナルドは、クロムウェルの息子と踊ることを許すのか?」
――クロムウェル。
屈辱と怒りで頭が沸騰しそうになった。
「あなた、キンボルトンへ陛下と一緒に来た――」
「グレゴリー・クロムウェルと申します。美しくこざかしい貴婦人と踊れて、光栄の至り」
(首を刎ねてやる)
「メアリー嬢、クロムウェルの首をとれって、煽っていたのでしょう。今、あなたは誰と踊っている?」
「……!!」
優雅な動きでこの少年がダンスのリードをとりつつ言った。
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