虐げられる貴婦人

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ピーターバラ大聖堂でのお妃様の棺安置が終わり、疲れて帰ってきて、メイドにお茶を入れてもらうとほっとした。ちょっとは泣いたけれど、とりみださなかった。シャピイの前で泣いたためもあるかもしれない。 (それなら、シャピイにもっと優しくすべきよね)  一生を賭してお守りしますと言う言葉にどきどきしたのは秘密だ。 「「お姫様」」  トムとエディが入ってきて言った。 「どっちがトムでどっちがエディか当てるゲームしよ?」 「えー、わからないわ」 「僕がトム」 「僕がエディ」  ふたりはそう言って、ぐるぐるとその場で回った。 「どっちがトムでしょう」 「どっちがエディでしょう」  本当にわからない。 「わ、わたくしから見て右がトムで左からエディかしら?」 「ぶー違いますー」  何回やってもあたらない。 「ふふ、本当にふたりはそっくりね」  母の死も、双子が笑わせてくれるかぎり、乗り越えられそうな気がした。 「あ、お姫様笑ったよ、エディ」 「そうだね、トム」 「「僕たちはずっと友達なんだよ」」 「ええ、友達よ」  そんな折、新しい出会いがあった。 「メアリー殿下」 「あ、マーガレット先生」  家庭教師の傍系王族の女性、ソールズベリ伯爵夫人マーガレット・ポールが入ってきて言った。 「お疲れでしょうね。王妃陛下は素晴らしい方でした。お悔やみを申し上げますわ」 「ええ、今日は勉強はおやすみにしない?」 「メアリー殿下、今日はそのために来たのではございませんわ」  マーガレットはこう言った。 背後に二十代後半位の顔のいい青年が立っていた 「私の息子のレジナルドを紹介します。ついこの間までパドヴァ大学で教鞭をとっていましたの。殿下とも年が離れてはいますがーーまあ、35歳なんですがね。いい話し相手になると思いますわ」  19歳のメアリーは考えた。35歳! おっさんじゃないの。でも、若く見えるわね。それに……顔がいい。  見惚れてしまった自分を、マーガレットが見ているのを感じ、はっと悟った。  ああ、そういうことね。 (自分の息子を将来の女王の王配にして、失われたプランタジネットの栄光を取り戻したいってわけ!)  そう思って、なにか顔つきやスタイルにあらを探そうとしたが、なかった。  美しい男だった。  レジナルド・ポールが母から離れて、『にやあ』と笑った。  ぞくっとしたのは一瞬だった。 「え……」 「おっほう。初めましてー、殿下!」  レジナルドが、態度はにぎやかに、ほの暗い笑っていない目で微笑んだ。
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