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非現実的は突然に
謎の老婆と会った翌日、寺輝が目覚めると自分の母親が忽然と消えていた。否、母親と母親に関連するもの全部が消えていた、が正しいか。
「ねえ、父さん! かっ、母さんは」
「カアサン? どうしてだ」
「えっ。だって、母さんが、」
「お前にはお前の母親が存在すると勘違いしているのか?」
「父さん? ねえ、父さんってば!」
「寺輝。うちの家族構成は父さんとお前、それだけだ。お前の母親は存在しない。それが普通なんだ。わかったか?」
寺輝は為す術もなくただ静かに首を縦に振る。
(じゃあ僕は誰だって言うんだよ)
そう思うと同時に、寺輝は昨夜の老婆を思い出した。
『全てはそれに記されている。数百番目の勇者様、どうか頼みましたよ』
(おみくじ、か。そういえば、あれを何となく上着のポケットにしまってから……。あれ、おみくじって帰ってきてから取り出したかな。しまいっぱなし? とりあえず探してみるか)
寺輝が、ふと右手の力を緩めると、かさり、と何かが落ちた。桜の花びらが落下するように、ふんわり、ふんわりと。
「ひっ!?」
床を見ると、そこには今まさに探そうとしていた、昨夜のおみくじが佇んでいた。
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