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穏やかな気候と春の日差しが心地よいエデンの果実の森。
豊富な果実が実る豊かな森は、広大で王国から離れているため、【妖精姫】が存在していることを隠すことにしたのだ。
というより、隠す他ないのだ。
前世(?)では、アイナノアは5歳になる頃には王国に献上されたのだが、記憶の限り彼女は普通の少女だった。
なぜバルバトルグ男爵家、うちの両親は国に私を献上しなかったのか。
それは、私の体が透けているためだ。
前世では普通に暮らしていた彼女が、なぜ今世では訳あり体質になってしまったのか?
おかげで友達も作れず、家族にすら私を見つけてもらえない生活にうんざりした。
全部“アイナノア(本物)”が呪いをかけたせいにしておこう。
しかし、なぜ死刑執行人だったモブキャラの私がアイナノアになってしまったのだろう?
どんなに首を捻っても答えは見つからなかったが、ただ1つわかることがある。
「私が王国に献上されないってことは、死刑を免れるってこと。悪女にならないってことよね!」
ひっそりと王国の加護をしていれば、1000年過ごせばいいのよ。
コンコンコン。
簡素に建てられた小屋に、乾いた板を叩く音が響き渡った。
なんだろう。
バルバトルグ家の使いの者だろうか。
果実が豊富な森だが、狩猟をするには5歳児には難しい。
それに、私は【妖精姫】があるから、お肉とか食べなくても大丈夫なんだよね。
むしろ、男爵家の料理が口に合わないことも要因でこの森に逃げて来たのだ。
週に1度、バルバトルグ家の使いの者がやって来て、調度品や服、食べ物を届けてくれる。
最初こそ、世話係もついてくる予定だったが、私が透明だということもあって世話など出来ることが不要になった。
なにより中身は17歳。
炊事、洗濯は出来る元 死刑執行人だ。
言葉が発せられるようになった2歳頃。
まだ私の体が半透明であった頃に、両親に神からの啓示だとして『このままではギフトが消失することになる。王国への献上はせず、エデンの果実の森へ住まわせ、妖精姫の存在をなかったものにせよ』と話した。
無論、2歳児が突如として流暢に喋り出したことにより両親は卒倒し、2週間寝込んだ。
しかも『神の啓示』とも言われたのだ。
献上する予定だった娘が言ったことで、バルバトルグ男爵家はしっかりその偽りの啓示を信じてこの森へ身を隠したのだった。
透明な身体では、自分がどんな姿なのかも確認できない。
透明人間とは便利だが、不便なことも多い。
美しい絹のドレスを纏っても、優れた美貌を持つアイナノアの顔は鏡に映らないのだから。
オシャレって、自分が見えてこそなんだって実感した。
さて、いつもなら勝手にドアが開かれて、せっせと荷物が運び込まれるのに、使いの人は入ってくる気配がない。
「誰?」
ベッドから降り、そろそろとドアの前に立った。
ドアの外では人の気配がする。
それも、複数人だ。
「中央帝国から派遣され参りました。第一帝国騎士団です。こちらに【妖精姫様】がいるだろうか?
皇帝の命により、妖精姫様を城へお連れするよう仰せつかった。ドアを開けて頂きたい」
神よ、なぜ私が存在していることがバレたのか教えたまえ。
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