34人が本棚に入れています
本棚に追加
それでも志摩さんは気を取り直したように俺の頭をわしゃわしゃと撫で、近くに置いてあった袋を手繰り寄せた。
「ま、いいや。おい、呉羽土産だ。」
ぐい、と差し出された袋に一瞬何のことか分からなかったけれど、綺麗な白い袋を見て気付いた。これは、さっき下で見たあの綺麗な人が志摩さんに手渡していたものだ。そう気付いたら思った以上に尖った声が出た。
「いらないっ。」
「あぁ?」
ムッとした声だった。俺の言葉に志摩さんが気分を悪くした証拠だった。それでも、俺は何も言わず、志摩さんから顔を反らし続けていた。
志摩さんは何も言わない。ただ、反らした顔に志摩さんの視線を痛いくらいに感じる。
紙袋はまだ志摩さんの手の中にあって、宙ぶらりんのまま俺と志摩さんの間で揺れている。
本当は嬉しかった。
志摩さんが俺にって買ってきてくれたものだから。
中身は何か分からないけど、俺の為に買ってきてくれたものだから。
それでも、今日一日あの人と一緒にいただろう志摩さんが、あの人と一緒に選んで、あの人と笑い合って、見つめ合って決めた物かもしれないと思ったら、何だか胸がぎゅぅっと締め付けられて苦しくなった。
泣いてしまいそうな気持ちになって、唇をきつく噛みしめた。
「おい、何拗ねてんだ。」
ようやく掛けられた言葉はさも呆れた風で。駄々を捏ねてる俺へのいつもの声音だ。
まるで、物覚えの悪い子どもになったみたいだ。志摩さんの、感情の降下気流に俺の身体が竦む。
それでも意地を張ったみたいに志摩さんから目を逸らし続けた。
帰ってきた時に見た、いつもより少し嬉しそうな表情の志摩さんが癪に障ったから。
こんな態度を取ったら余計志摩さんに嫌われる。そう思う反面、だからどうしたと冷静に考える自分もいる。俺と志摩さんは雇用主と使用人でそれ以上でも以下でもない。俺たちの間にはそれ以外ないのだ。
最初のコメントを投稿しよう!